【無責任なつぶやき笑】僕の代わりをお願いします?

  by nameless  Tags :  

寒空の下でただひたすら待つ。それが仕事だった。震える指で携帯電話を操作して暇を潰す。定められた時間まで電池残量が持つものかと随分心配したものだ。
花見の場所取り――の代行。
以前、僕が経験したアルバイトだ。はじめに聞いた時は時給がそれなりに高額で驚いたのを覚えている。ブルーシートを広げ、そこに座っているだけでこんなにもらえるの?っと思ったものだ。しかしどうして、実際やってみると……これがなかなかキツい。人類不変の敵は、やはり “暇” と “寒さ” と “花粉症” だからだ。

っと、こうした “場所取り” や “並び” の代行は、その方面の業界では今はもう古いのかもしれない。僕がアルバイトを経験したのも八年前のことだ。その頃『代行業』と呼ばれる仕事には、それほど種類がなかった。
しかし今は違う。代行業界はその裾野を大きく広げてきている。
衣・食・住の充実。後発開発途上国(LDC)に比べ、それらを満たされることが当たり前となって久しい日本では、第三次産業(サービス業などの無形財)が多様化へとひた走っている。

ところで皆さんは『代行業』と聞くと、どんなもの思い浮かべるだろう?

・場所取り、並び代行
・自動車の運転代行
・結婚式、披露宴の出席代行
・結婚式二次会の幹事代行
・家事全般代行

メジャーどころを挙げてみれば、こんなところか。

自動車の運転代行は、飲酒運転に対する罰則がより厳しくなったことによって頭角を現した代行業だ。2000年代に入り、危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪の新設によって一気に拡大した。結婚式や披露宴の出席代行が生まれたのも、現代日本の風潮が色濃く反映されていると感じられる。
そんな業界にあって、僕が知る範囲で、結婚式への出席代行以上に極めて現代日本的だと感じる新しい代行業が以下だ。

・愚痴聞き代行
・謝罪の代行
・告白代行
・お墓参り代行
・子供の宿題代行

隙間産業というか、何というか……発案者の目のつけどころに恐れ入る。僕のような人間から見れば、これが実際に仕事として成立しているという事実に驚きを隠せない。

さて、ここで少し話は変わるけれど、皆さんは “能力の外部化” について、どうお考えだろうか?

僕は代行業の活性化も、これの促進の一つではないかと感じている。小難しい話はさておき、僕の言う “能力の外部化” とは、例えば『電卓』や『携帯電話』の利用を指す。かつての日本人は、計算の全てを己の脳を用いて行なっていた。家族や友人の連絡先もしっかりと己の頭に記憶していただろう。これらを今は、すっかり外部機器に “代行” させている。目的地への経路も、今や『カーナビ』が代行して考えてくれる時代だ。地図を開き、道順を考え、それを記憶する必要は無くなってる。

――さて、ここで視点を変えて考えてみよう。

【ここからが僕の無責任なつぶやき↓↓↓】

僕ら人間の機能はどこまで代行できるのだろうか?

ざっと考えてみても、生命活動を維持するための食事や睡眠などの外部化は難しそうだ。けれど技術の進歩によって、もしかしたら可能になる日が訪れるかもしれない。
『睡眠代行』や『食事代行』が可能となる日が。
想像力を膨らませるならば、そこから派生して多くの代行業が生まれてくる。
例えば『空腹我慢代行』と『運動代行』をセットにした『ダイエット代行』など、どうだろう? なかなか流行りそうな仕事ではないか?

他にも、もしも『呼吸代行』を行えるようになったならば、どうだろう?
まず僕の好きなスキューバーダイビングの様式は一変するだろう。己が水中に潜っている間、代わりに誰かに呼吸していてもらうのだ。呼吸の代行だけでお金がもらえるのなら、僕はぜひ、その仕事につきたい(笑)

しかもこれが実現すれば宇宙飛行にも影響を与えそうだ。そうなれば一大産業と成り得る。これらの事業イメージの案を固め、特許でも取れないものか?

そう夢を膨らませる一方、僕は何でもかんでも外部化していいものだろうかとも思う。
全てを外部化してしまったなら、己の存在意義が無くなってしまうのではないか。僕の代わりに、代行者が僕として生きる。それはもう、その代行者こそが、僕になるのではないだろうか。そうなると僕は一体何になるのだろう? それこそ小説になりそうなお話だ。

他にも、重要な役割の全てを人任せ(代行)にしてリスクは無いものか、という懸念もある。携帯電話やパソコンがハッキングされて大きな痛手を被ってしまうのも、このリスクに類するものなのではないか? 今よりもっと外部化が進んだ場合、これらの被害にあった場合の影響はさらに拡大してしまうことだろう。

僕は思う。代行業が過剰に発展し、外部化が進み過ぎて行き着く先はSF映画『マトリックス』の世界なのかもしれないと。人間がカプセルの中で生きていく世界。生命維持までの全てを機械に任せ、彼らに管理されて夢の中で生きていく世界……それは本当に幸せなのだろうか?

とはいえ、目下、人は直面する “楽をしたい” という欲求には逆らえない。
僕だってそうだ。
ここまであれこれ語ってきた僕が、しかし今、一番 “代行” して欲しいものは――

仕事の代行(笑)

誰か僕のシステムエンジニア業を代行してくれない?
あっ、でもそれは無理か……
それなら、その誰かは最初から僕の同僚として同じ会社に就職して働けばいいのだから。
これはやっぱり、自分のことは自分でやれということか。

ところで世間の親御さん、さすがに『子供の宿題代行』とは、いかがなものだろう!?

作家を志すシステムエンジニアです。小さな文学賞を受賞し、2014年に念願の自身1作目をハードカバー出版。現在2作目の出版 および 新たな賞の獲得へ向け、システム開発の傍らで鋭意執筆中。ミステリ、ファンタジー、SF、ラノベなど、幅広く挑戦しています。好きな作家サンは伊坂幸太郎サン、坂木司サン、隆慶一郎サン、伊藤計劃サンなど、挙げればきりがありません。何よりも文章を書くことが好きで、ライターとしても執筆していきたいです。