”ゆるキャラ”ができるまで ~生みの親が語る西宮「みやたん」制作秘話~

テレビで彼らの姿を目にしない日はないほどの勢いで全国を席巻しているゆるキャラブーム

あまりに生命感あふれるゆえか、彼らが地方自治体や企業のイメージ向上という使命を背負った”作品”であることを忘れてしまっている人は多いのではないだろうか。

彼らはどのような過程で、どんな人によって作られているのか?

今回、兵庫県西宮市の観光キャラクター『みやたん』を制作したデザイナーのたかいよしかずさんにお話をうかがうことができた。

筆者:『みやたん』制作はどのような形でオファーがあったんでしょうか?

たかい:今は市の観光キャラクターに昇格したんですが、もともとは『西宮まちたび博』というイベントのマスコットキャラクターとしてオファーがあったんです。「観光客だけでなく市民の方にももっと自分の街を知ってもらいたい」というような趣旨のイベントですね。

僕は西宮市に住んでいるんですが、過去に”西宮在住の絵本作家”として取り上げていただいた機会がありまして、そういったご縁で市役所の担当者の方に紹介されたんです。

筆者:西宮市はいわゆる”ゆるキャラ”を作ろうとしてたかいさんにオファーされたのでしょうか?

たかい:市のほうから「こんなイメージのものを作ってほしい」というような希望や制約はまったくありませんでした。僕はもともとハッピーで可愛らしい作風なので「この人にまかせれば可愛いキャラクターができるだろう」くらいのことはあったかもしれませんが。

ですからお話は「まちたび博のキャラクターを作ってください」ということだけでした。ほんとは縛りがあったほうが作り手としては楽なんですけどね(笑)

筆者:たかいさんにおまかせだったんですね。どのような発想からみやたんが出来上がったのでしょうか?

たかい:「市内には甲子園球場とか西宮神社、酒蔵とか有名なものはいろいろあるけど、建造物をモチーフにするとそこだけのキャラクターになってしまうからアカンなぁ……やっぱり自然を表現するべきかなぁ……」といろいろ考えてたんです。

そのうちにまちたび博というのは西宮の町を”〇〇をてくてく歩く”ことだと考え、その方向性からキャラクター像をイメージしていきました。とは言っても初めは「歩くってことは靴のキャラクターか、ゆっくり歩くから亀か?……いや全然かわいくないな」とか試行錯誤ばかりで(笑)

最終的に「てくてく歩く、てくてくあるく……てるてる坊主みたいやな!」という流れでみやたんの土台ができました。

筆者:みやたんは案外思いきった発想から生まれていたんですね(笑)

たかい:すべては”てくてく歩く”っていうフレーズからですよね。

『みやたん』っていう名前は市民からの応募で決まったんですけど、それまでは僕自身で『てく坊』って呼んでたくらいです。

筆者:みやたんの企画がスタートした2011年頃、ゆるキャラは今ほどのブームではなかったと思いますが、すでにひこにゃん(彦根市 2006年)、せんとくん(奈良県 2011年)などの有名ゆるキャラが注目を集めていました。

みやたんを制作するにあたり意識されることはありませんでしたか?

たかい:可愛いキャラクターを作るのは昔からの仕事だったので、みやたんの場合に限ってことさら他を意識したってことはありませんでしたね。

もちろんせんとくんを知ったときは「気持ち悪いな~」とかそういう印象はあったんですけど(笑)でも、デザインした籔内佐斗司さんは昔からすごく好きな作家さんでしたし、ひこにゃんにしても「こいつ可愛いな~」って思ったし、知識として把握はしていました。ただ、今ブームになってる”ゆるキャラ”として認識していたわけではなかったですね。

筆者:実はみやたん以外にも候補キャラクターがいたという噂を聞いたのですが。

たかい:そうですね、オファーをいただいてる以上、アイデアを一つだけしか出さないといういうわけにもいかないので。みやたんともう一つ『みにゃっこちゃん』という猫のようなキャラクターを提出したんです。

筆者:みにゃっこちゃんはどんなイメージのキャラクターなんですか?

たかい:「小さくて可愛いものが街をチョロチョロ歩いてたらいいなぁ」くらいのイメージです(笑)本命はみやたんだったので。

筆者:みやたんが選ばれた決め手はなんだったんでしょうか?

たかい:市役所の方からは「どちらも可愛くて決められません」っていうことだったので、僕のほうから改めてみやたんを推させていただいたんです。

でも結果的にはみにゃっこちゃんもサブキャラみたいな位置づけで残してもらえたから良かったです。

筆者:みやたんの着ぐるみが出来上がってきた時の感想ってどんなものだったでしょうか?

たかい:抱きつきたいくらい可愛かったですね(笑)

もちろん絵の時点から可愛いものを目指して描いているんですけど、実際に着ぐるみで三次元になると衝撃的な破壊力を感じましたよ。

筆者:これまでに作ったキャラクターでも着ぐるみになったものはあったんですか?

たかい:15年前くらいにも1度あったんですけど、その時は予算の都合とかもあって、正直可愛い出来上がりではなかったんですよ。制作現場まで行って「ここ2ミリずらして」とかいろんな修正したんですけど、結局うまくいかなくて……でも、みやたんの場合はいきなりガーンと可愛いものが出来上がったのでほんとうに感慨深いものがありましたね。

筆者:みやたんは桜、えべっさん、酒樽、野球ボールという具合にその日の行動によってペンダントを付け替えているようですが、これはどういった発想からそうなったんでしょうか?

たかい:西宮は海、山、歴史的建造物、球場と実にいろんなものがある街なので、行く場所によってそれを表現できるような要素があればいいなと思ったんですよ。ヨットハーバー行くときはヨットを頭に乗せたり、『さくらまつり』やったら頭から桜の木が生えてるという具合に。

でも現実的なことを考えると、着ぐるみ自体でそれだけのパターンを作るとなると大変な作業だし、とても予算が出ないだろうなって思ってペンダントにしたんです。

筆者:誕生した時のキャラクター設定が、Twitterとか始めたり各地のイベントに参加してゆくうちに少しずつずれていったりするようなことはありませんか?

たかい:僕自身、そんなにチェックしていないのであまりわかってないんですが、面白い珍事件とかはありましたよ。

夙川のさくらまつりにいろんなキャラクターと一緒に参加した時だったと思うんですけど、司会者の人が「〇〇ちゃんは何が好物なの?」っていう質問をしたんですよね。聞かれてもみやたんはもちろんしゃべれないから勝手に司会者さんが「へぇ~みやたんはお酒が好きなんだ?」というふうに言っちゃったんです。

筆者:「みやたんは酒好き」というイメージが広められちゃったわけですね(笑)

たかい:その時は市の方が「すいません、司会者が暴走してます!」ってわざわざ謝りにきてくれたんですけど(笑)

他にも、公式TwitterでロックバンドのYOUTUBEをツイートしてしまったようなことはあったらしいです。あくまで噂ですが(笑)

筆者:好意的な反応がほとんどだと思いますが、みやたんにケチをつけてくるような人っていませんでしたか?

たかい:うーん、もしかすると市のほうにはそういった意見もあるのかもしれないけど、僕たちまでは聞こえてきてないですね。市の担当者の方からは「すごく人気ですよ」とかいいことしか聞いたことがないです。

また、こういうキャラクターって着ぐるみになると小さなお子さんから怖がられたり、はたまた殴る蹴るみたいなイタズラをされることがあるって聞くんですけど、みやたんにはまったくそうゆうことがないらしいんです。

筆者:『ふなっしー』とかはよく子供からボコボコにされてるらしいですもんね。なんでみやたんは優しく愛されるんでしょうか。

たかい:色ですかね。ふなっしーみたいな黄色とか赤色は興奮色だからお子さんの暴力性を煽ってしまうのかもしれない。みやたんの水色はどちらかというとリラックスする色ですから。

筆者:みやたんはこれまで『みやたんマーチ』、『みやたん音頭』をリリースしていますが、これはどういう経緯で生まれたものなのでしょうか?

たかい:これは僕自身の希望ですね。

筆者:自由につくられたんですね。

たかい:キャラクターに留まらず、それに関連する音楽、映像なども含めてどんどん想像が広がるほうなんですよ(笑)はじめは『みやたんマーチ』が先なんです。通勤の行き帰りに鼻歌でフンフンいいながら作詞作曲したんですけど、編曲の田中友直さんがデキる方ですのでうまくまとめていただきました。

筆者:『みやたんマーチ』が好評だったので引き続き『みやたん音頭』も今年7月にリリースされたんですね。

たかい:おかげさまで。でもほんとは音頭より先に演歌を作りたかったんですよ。まちたび博関係者の間で報告会があった時に勢いで「今度はみやたんに演歌を歌わせます!」と言っちゃったので(笑)

筆者:具体的なアイデアは出来上がっていたんですか?

たかい:『西宮てくてく慕情』っていうタイトルでサビは浮かんでたんです。

「ア~アァン♪西宮~てぇ~くてく慕情ゥォ~♪」

って具合にすごい渋い名曲の予感があったんですが、全体が出来上がる前に市のほうから「今度は音頭をお願いします」って依頼があったんですよ。

筆者:『みやたん音頭』の歌い手さんはオーディションなどで選ばれたのでしょうか?

たかい:いえ、市からの推薦です。西宮少年合唱団の先生が男の子、女の子を一人ずつピックアップしてくれました。

筆者:レコーディングの指揮もたかいさんがされたんですか?

たかい:歌い方のイメージを少しだけ注文させてもらいましたね。コーラスみたいな正統派な歌い方を勉強している子たちなんですが、あえて子供らしく地声で明るく歌ってもらいました。あとで先生から「普段はこんな歌い方はさせないんですけど」って言われちゃいましたけど(笑)

筆者:音楽以外のことででも「今後みやたんをこうゆうふうに展開していきたい」っていう希望はありますか?映像、グッズなどいろんな伸びしろがあると思いますが。

たかい:うーん、今のところ具体的な希望はないですねぇ……でも、いい意味で一人歩きしていってほしいですね。

僕はもちろんいいアイデアが浮かべば提案するけど、他の方面からもいろんなリクエストが出てこその公のキャラクターだと思うんです。

筆者:いろんな人を巻き込んでいきたいということでしょうか。

たかい:そうですね。すでにグッズに関しては西宮市の企業さんたちが権利を取得して、独自に企画されているものもあるんです。2012年に発行された『みやたん西宮探検BOOK』という写真集も、みやたんの大ファンな神戸新聞の記者さんが企画してくれた商品ですし。

大勢の人に愛されることによって、僕が思いもしなかった展開をしてくれるとデザイナー冥利に尽きますよね。

筆者:たかいさんは現在、西宮市にお住まいということですが、住民としてみやたんを意識される機会は多いですか?

たかい:仕事が忙しくてあんまり地元をうろうろしてないので、あまり出会わないんですよ(笑)

でも市の方から「みやたんが市役所の広場でラジオ体操します」と教えられて行ってみるとものすごい人だかりが出来てたりするんですよね。そういう現場に出くわすと素直にうれしいです。

筆者:実は最近、みやたん存続の危機があったらしいという噂を聞いたのですが。

たかい:前の市長さんはみやたんの大ファンでいろいろ応援していただいてたんですが、今年5月にその方が退任されたんです。

その時に「新市長の方針でみやたんがいなくなるかもしれない」という噂が流れたんですよね(笑)

筆者:仕分けにかけられる恐れがでてきたわけですね(笑)

たかい:正直、ぼくもかなり不安に思っていたんですけど、西宮経済新聞の記者さんが新市長就任のインタビューをした時に「みやたんはどうなりますか?」って聞いてくれたみたいなんですよ。

そしたら「自分は前市長の作ったものをすべて壊そうとしているように思われてるけど、みやたんは無くそうとは思っていません。市民のみなさんに愛されてるキャラクターだから、これからも力を入れていきたい。」って言明していただけてね。

あの時はほんとホッとするやらうれしいやらでした。

たかい よしかず プロフィール
大阪生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業。
京田クリエーション 代表取締役。
“見た人を元気づけられる作品をつくること”がモットー。
キャラクターデザイナー、イラストレーターとしてのみならず、キャラクターソングの作詞・作曲も手がけるなどマルチな才能で活躍し、世の中に次々とハッピーを届けている。

 

~お知らせ~
8月3日、インタビュー中で紹介した『みやたん音頭』のリリースイベントが開催されます


【日程】8月3日(日)
【開演時間】17:00
【場所】ららぽーと甲子園 1F パークウォークコート
【料金】入場無料
【交通】阪神電車『甲子園駅』東改札口より徒歩5分 

※取材にご協力いただいた『京田クリエーション』たかいよしかずさん、田中章生さんに感謝いたします
http://www.kyoda.co.jp/

中将タカノリ

■シンガーソングライター、音楽・芸能評論家 ■奈良県奈良市出身 ■1984年3月8日生まれ ■関西学院大学文学部日本文学科中退 2005年、加賀テツヤ(ザ・リンド&リンダース)の薦めで芸能活動をスタート。 歌謡曲をフィーチャーした音楽性が注目され数々の楽曲提供、音楽プロデュースを手がける。代表曲に「雨にうたれて」、「女ごころ」(小林真に提供)など。 2012年からは音楽評論家としても活動。さまざまなメディアを通じて音楽、芸能について紹介、解説している。

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