インスリンに、認知症の治療や記憶・学習能力の向上にもつながる働き発見!

  by なみたかし  Tags :  

 インスリンといえば、ひとのすい臓でつくられるホルモンで、唯一血液中のブドウ糖(血糖)を少なくする働きをもっている。インスリンの作用が不足したり、インスリンの分泌量が減少したりして糖尿病が起きる。

 糖尿病には「1型糖尿病」と「2型糖尿病」がある。日本では、95%以上の糖尿病患者が2型糖尿病である。2型糖尿病は、いくつかの遺伝因子と“食べすぎ”“運動不足”“ストレス”といった生活習慣が加わって、インスリンの働きを悪くしてしまい発症する。

 一方、細胞の表面にはインスリン受容体と呼ばれる複合タンパク質があり、インスリンと結合して細胞質側のチロシンキナーゼドメインを活性化し、信号を伝える。信号の受容により、細胞内へのブドウ糖(グルコース)の取り込み、タンパク合成の促進、細胞分裂の促進、血糖値の低下などが起きる。

だが、インスリン受容体の働きはそれだけではなかった…。

 今回東京大学で、インスリン受容体が細胞内で神経細胞間接合部のシナプスまで運ばれて学習が成立することが、生物実験で確かめられた。

 確かめたのは何と線虫という生物。ヒトや哺乳類の脳は非常に多くの神経からなり、個々の神経細胞が果たす役割について調べることは容易でない。

 一方、今回研究に用いた線虫(C.エレガンス)は全体で約1000個の細胞からなり、そのうち約300個の神経細胞しかもたないため、行動における個々の神経の役割を調べることができる。また学習・記憶ができない変異体の作製を行うことも容易である。

 この成果は、ヒトなどの哺乳類にもあてはまり、認知症の治療や記憶・学習能力の向上にもつながる基礎的・重要な発見である。米科学誌サイエンスの7月18日号に発表された。

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