ダルビッシュ選手の「中4日登板は短すぎる」発言は本当に正しいのか?

  by Takehito Sonoda  Tags :  

これからMLBに挑戦する日本人選手へ……

故障者リスト入りした田中将大選手

田中将大選手は7月11日(日本時間12日)に、靭帯(じんたい)部分断裂を起こしたことによる故障者リスト入りを余儀なくされました。
現時点ではトミー・ジョン手術(靭帯再建手術)をすることなく、「PRP」と呼ばれる注射による治療法とリハビリで回復を目指しているとのこと。
12勝4敗、防御率2.51という好成績で、一時期はヤンキースのエースまで上り詰めた投手だっただけに、この戦線離脱は残念としか言いようがありません。
最短6週間の治療で田中選手の早期復帰を願うヤンキースですが、「靭帯部分断裂」という選手生命をも脅かしかねない負傷だけに、球団内での思惑も様々に分かれているらしいです。

まず第一に「早急に手術をして早期復帰させる」という意見。
しかし、これは再発の危険性もあるので選手として短命に終わる可能性もあり、また右肘に負担がかかるスプリットの投球頻度は減ってしまいます。
スプリットは田中選手の決め球であり、アメリカでは非常に有効な変化球のため、ケアを優先する余り慎重な投球を続けると威力が半減する可能性があります。
そして第二に「井川選手の失敗を払拭したい」という思惑。
かつてヤンキースは井川慶選手を30億円投資して獲得しましたが、MLBでは通用しませんでした。
田中選手はその何倍もの投資額(161億円)で獲得したため、もし手術の不手際により田中選手の選手生命が絶たれたら、球団支配人であるゼネラルマネージャーは二度の過ちを繰り返したことになります。
すでに故障者リスト入りが決定したことから、ファンやマスコミによる批判も目立ち始めているので、冷や汗が絶えない状況です。
仮にトミー・ジョン手術を受けたとしても、復帰直後はすぐに本調子に戻らないため、今年ばかりか来年も棒に振ることになります。
ヤンキースは長期で活躍してほしい一方、高額投資をした理由により結果も求めますので、手術するか否かの決断に焦るのは当然のことだと思います。
そして第三は「責任所在を追求する」という姿勢。
まずヤンキースのジラルディ監督のやり方に疑問を持つ考えがあります。
ジラルディ監督はキャンプのときから、「決め球を使え」と半ば強要する姿勢で田中選手に指導してきました。
結果として、今年のシーズンで田中選手はスプリットを多投し、昨年のシーズンでもスプリットを530球投げていますが、今年はシーズン半ばで477球も投げてしまいました。
他にもこの監督は投手を酷使するような傾向にあり、サバシアやイバン・ノバなど故障者が続出しました。
ノバは4月にトミー・ジョン手術でメスを入れたばかりです。
そして、この「責任所在を追及する」姿勢は、日本の球団である楽天にも目が向けられています。

日本シリーズで田中選手を酷使したツケ

昨年、田中選手の楽天球団在籍時の投球数は、MLBの平均的先発投手の5年分に相当すると言われています。

「日本シリーズ第6戦で、田中選手は160球を投げきる」
「翌日の第7戦では連投で15球を投げ、優勝に貢献しました」

この楽天での試合内容を見たMLBスカウト陣は、戦々恐々としていたのではないでしょうか?
MLBにおいて選手の肩は消耗品として考えられています。
そしてこれは科学的に数値として導き出すことが可能なので、その指標からスカウト陣は選手の賞味期限を割り出しているのです。
その算出法とは「Pitcher Abuse Points(投手酷使点)」と呼ばれています。
その数式は非常に簡単で、「(投球数-100)の3乗」で導き出せます。
大切なのはその数字を単体で見るのではなく、シーズンを通して分析を行います。
現在のMLBにおいて酷使と見なされるのは、シーズンを通して10万ポイントを突破した投手と言われています。
2013年のシーズンでは1位がティム・リンスカム投手(ジャイアンツ)で13万2001ポイント(最多投球数:148)、2位がC・J・ウィルソン投手(エンゼルス)で10万8692(最多投球数:124)ポイント、そして3位がダルビッシュ有投手(レンジャーズ)で9万8298ポイント(最多投球数:130)となっています。
「Pitcher Abuse Points」を考慮した上での結果かもしれませんが、10万ポイントを超えた選手は2人しかいません。
対して日本シリーズ第6戦の田中投手のポイントを計算してみると、

21万6000ポイント

となり、シーズントータルで算出すると、

21万4666ポイント

にもなるため、「いつ故障してもおかしくない水準」である20万ポイントをはるかに超えた数値を、田中選手はたたき出していることになります。
これではMLBのスカウト陣が青ざめるのも当然です。
そして今年の田中選手の故障は、この楽天での酷使が原因だとアメリカのマスコミは騒いでいます。
日本とアメリカでは登板間隔などのシステムが違いますので、この投球数が影響しているかは定かではありませんが、考慮に入れておく価値はあると思います。

ダルビッシュ選手が心配する「中4日での登板」の影響

今年のMLBは異常とも言えるほど、トミー・ジョン手術を受ける投手が増えています。
開幕から2ヶ月が経過した時点で、すでに20人もの投手が肘の靭帯再建手術を受けたとのこと。
しかも、将来を期待された若手も多く、ホセ・フェルナンデス(マーリンズ:21歳)、ジャロッド・パーカー(アスレチックス:25歳)、マット・ムーア(レイズ:24歳)など、二十代前半の投手が目立ちます。
重ねて言いますが、トミー・ジョン手術を受けたからといって100%再起が可能だとは限りません。
肘の靭帯再建手術は文字通り、選手生命を脅かしかねない大変な手術なのです。
この件を心配したのか、ダルビッシュ選手のある発言が注目を集めています。

まず第一に「中4日は絶対に短すぎ。球数は関係ない」という意見。
短い登板間隔が疲労の回復を妨げているため、「140球投げても、中5日以上あれば肘の炎症は取れる」と発言し、先発枠増加を訴えました。
そして第二に「ボールが滑るため、ちゃんと持たなきゃいけないってことは、肘にストレスがかかる」という意見。
日本と違ってボールの形や重さも違うため、肘の負担が増すらしいとのこと。
そして第三に「偏った筋力トレーニングがいけない」という意見。
MLBでの投手筋力トレーニングは下半身や背中に集中していますが、これでは球速は上がるけど肘をプロテクトできないと発言しています。
やるのであれば全身を通して行ったほうが効率が良いとのことです。

特に注目を集めたのが「中4日は絶対に短すぎる」という意見です。
ダルビッシュ選手は、本人も認めるほど筋力トレーニングオタクです(Twitterなどを拝見すると、おそらく下手な専門家よりも詳しいと思います)。
彼は長年投球を重ねた上で、「肘の炎症が取れるのはいつごろか」という分析も行っていると思います。
その本人が「中5日以上あれば肘の炎症が取れる」と豪語しているのですから、簡単に無視することはできません。
それに投球数は関係なく、大切なのは休息期間だという考え方を尊重すれば、「Pitcher Abuse Points」の数値もほとんど関係ないものになります。
またダルビッシュ選手は、本人も認めるほど変化球オタクです。
彼はスプリットの多投に関しても意見していますが、この変化球に対して肘の負担はあまり関係ないと意見しています。
確かにスプリットが影響しているとしたら、より年齢を重ねている上原選手(レッドソックス)や黒田選手(ヤンキース)にも当然として多大な影響がある訳です。

当の上原選手も、

「それが直接の原因かというと、ボクは違うと思う。変化球を投げたら何でも肘にくると思いますよ。それがスプリットって言われるのが納得がいかない。スライダーだって肘にきますよ。真っすぐだけでもくると思いますよ。ケガしない人だっている」

と意見しているため、すべてスプリットが原因だと考えるのも問題だと思います。

中4日登板に関してですが、契約の関係上、5日まで伸ばすという環境にするのはまだまだ難しいかもしれません。
また中4日のほうが実力を発揮できると意見する選手がいることも事実です。
この問題に関しては様々な意見を取り入れながら、しっかり議論すべきだと思います。
田中選手は移籍したばかりというプレッシャーや、また環境に慣れていないという要因もあったかもしれませんが、いずれにしろこの時点での故障は悲しい事例だと思います。
そうした後輩を思いやるダルビッシュ選手の意見は貴重であり、MLBに対して影響があるにしろないにしろ、同じ戦友として発言することは素晴らしい姿勢だと私は思うのです。

写真引用元:http://photopin.com

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