払戻率の変更とアベノミクス

  by アルナオ  Tags :  

6月7日(土)からJRAの払戻率が変更される。

人気の高い投票法の種類を下げて、人気の低い投票法の種類を上げるのは当然とも言える変更だが、長期的には逆効果になりそう。

 

どうして人気の低い投票法となるのか

人気の低い投票法は、感覚的な費用対効果が低いと感じられているものである。大きくアップした枠連・馬連・ワイドは結構当てにくいのに配当が低いというイメージがある。

例えば3月16日(日)中山競馬では、1人気が5勝2着2回・3着1回と好成績をあげているが、第2レースで2人気・1人気・3人気の決着になった以外は1人気と3人気のワイドが3回馬券になっただけである。

1人気2人気3人気をボックスで枠連・馬連・ワイドの各方式で購入した場合、3点x12レースで各方式3600円賭ける事になるが、枠連は240円、馬連も240円、ワイドは2030円の払い戻しで、大きく損をしている。

1人気から全部の馬に流して購入した場合、11レースは2着同着という珍しいケースで、さらに10人気が2着にはいるという波乱だったにもかかわらず、1500円賭けて馬連で3770円にしかならない。

最も配当が高かったのが5レースで、枠連7200円、馬連19万5070円、ワイド3万5280円だが、6人気と13人気での決着だけに、当てようと思えばかなり賭け金が膨らむことになりそうで、人気馬を勝っても損が大きいし、高額配当を求めるなら三連単やWIN5の方が良いということになる。

 

人気のある投票法の原因

高額配当を求めないなら三連単より大きく減らされた複勝ということになる。

同じように16日のレースを買い続けた場合、1人気は12レース買えば1200円賭けて1140円、2人気は450円、3人気は960円と1人気2人気3人気足して3600円賭けた場合は2550円になる。枠連・馬連・ワイドどれよりも配当が良いことになる。競馬をギャンブルではなくゲーム感覚で楽しむなら、1日1000円程度で遊べる複勝に需要があるのは分かって頂けると思う。

一方で、複勝をギャンブルにする人もいる。どう考えても負けそうにない馬がいるときに、複勝が110円つきそうなら大きく賭ける方法である。1億賭ければ2分程度で1千万の利益になる。9勝1敗で利益がなくなる方法だが、複勝が1.2倍つけば利益が2倍になることもあり根強い人気がある。

 

対処療法では上手く行かない

低額で夢を買いたいなら三連単・WIN5で、低額で遊ぶか高額でギャンブルするなら複勝になるが、人気があるからといって配当を下げればどうなるか。三連単やWIN5の配当が低くなれば夢がないと感じて競馬をやめてしまうこともあるだろうし、複勝の配当が低くなれば、1日1000円5週間(土日x5で10日)で1万円と考えていた人が1日1100円になれば9日しか遊べず、1日いけないなら止めようと思うかも知れない。複勝110円でギャンブルしている人も120円になる事が少なく、100円になってしまうことが増えれば9勝1敗でも元が取れないなら止めてしまうだろう。

人気のあるところを締め付けて人気のないところに移動させようとしても簡単にいかないのは当然である。

 

アベノミクスと労働市場

アベノミクスで対処療法になってしまっているのが労働政策である。

労働問題はバブル崩壊で生じた日本式雇用環境をどのように改善するかにあるはずだが、賃金の高騰には非正規化で、高齢化にも非正規化で、失業率の改善も非正規化でと闇雲に非正規化という薬を与え、それにともなう少子化や社会保険費用の増大には移民や消費税増税という大手術で対応しようとしている。これでは労働市場が崩壊してしまう。

 

雇用環境の違い

アメリカ式雇用環境は賃金が労働市場で決まるという前提がある。アメリカの経営者は決まった賃金で働く労働者をどのように使って利益を出すかを考えれば良い。つまり株主は賃金を考慮せずに自分の利益を追求することができる。一方で日本式雇用環境は賃金が社内で決定されるため、経営者は賃金にも目を向けなければならないし、株主も賃金に目を光らせることになる。バブル期まで株主はメインバンクなどの安定株主が多く、長期的に株を保有するため、企業のコストを背負ってくれるいわゆる「逃げない労働者」としての正社員を歓迎していた。正社員は企業の盛衰というコストを背負うため賃金が高く、そのコストを背負わない非正規は賃金が安いという構造になっているのは当然であった。バブル崩壊や不祥事によって、広く株主を求めることになった。短期的な利益を求める株主は「逃げない労働者」にコスト負担を求め、リストラが行われることになった。日本では事業による利益と、賃金削減による利益の2つを株主が手にしていることになる。

 

昭和初期以降の労働市場

日本の労働市場は、生活給を中心としている。生活給は昭和初期の恐慌の中で生活費と賃金に不均衡が生じているところから生まれた。

一定期間で技能の差がなくなることから、若者は生活に余裕ができる一方家族を扶養できない人が生じた。そこで年齢と家族構成を中心として、生活できるよう賃金体系が整備されたのである。

 

現在の労働市場

現在は生活給を中心とした正社員と、最低賃金と熾烈な競争によって賃金が決まる非正規に分かれている。

日本は正社員を保護する制度が多く、全ての労働者所得から正社員所得を引いた残りを非正規が争う構造になっている。長期の不況下でも事業の利益と賃金削減の利益両方を手にしていた株主を満足させるにはさらなる賃金削減が必要だが、非正規の賃金をこれ以上削減するのは最低賃金法に抵触するため正社員の賃金を減らす必要が出ている。それにもかかわらずアベノミクスの影響で非正規賃金の上昇が生じ、政府の要請もあって正社員のベースアップにも応じなければならなくなった。経営者が困るのは当然だろう。

 

経営者が主張すべきことは

正社員を解雇しやすいようにして賃金を下げ、これまで通り株主に二重の利益を授ける方法が楽なのは確かだが、企業価値は落ちて行く。宣伝等によって企業価値を上げる方法がないわけではないが、テレビコマーシャルの影響力が落ちている以上賃金を上げた方がコスト安になりそうだ。

手取りを減らさずに賃金を減らす方法も主張されている。社会保険料の企業負担を削減するというものだ。これも企業価値は落ちるが、報道されなければ簡単には分からないし、報道されても無関心な人の方が多いだろう。この方法の最大の問題は、たとえ法律を変えて企業負担をなくしたとしても、その分民間保険などに加入できるよう支援する企業の価値があがることになり、人手不足も加味すれば福利厚生競争になりそうだ。

先を考えれば対処療法ではどうにもならなくなる。そもそも経営者は事業で利益をあげるのが仕事で、賃金に構うのは時間の無駄であろう。アメリカのように賃金は外部で決定するように主張するのが良さそうである。日本でも最低賃金法があり、最低賃金ぎりぎりで非正規を雇用する企業は賃金が外部で決定していると言える。賃金は外部で決定し、従業員のインセンティブは賃金以外で高めるよう工夫すれば良い。

 

日本式雇用環境に戻ることも考えうる。

終身雇用制を復活させるかわりに従業員やその家族が安定株主になる方法である。従業員が企業の所有者になるというのは社会主義的方法になるが、ある従業員を扶養する義務が生じる人々が少数ずつ株を持つようになれば、その従業員が生活できるよう安定して発展的な企業運営を求めることになり、企業も多くの利害関係者との良好な関係を結ぼうとコーポレートガバナンスが進展することにもなるだろう。その結果企業価値が上がり、長期的に株を保有してくれる外部の株主も増えるはずである。

 

勝負しても良いのではなかろうか

成長するというのは長所を伸ばすか短所を克服するかいずれかに重点が置かれるはずだが、短所を克服する方にばかり目が行ってしまうのは仕方ないことだろう。出る杭は叩くという日本的な慣習もあり、長所を伸ばすのは難しい部分もある。

今年最初のG1は最低人気馬が勝利した。昨年春は世代No1と言われていた馬だが、評価はされなかった。競馬が世相を現すなら、評価されていない元優秀な人を活用するのが面白そうだ。コミュニケーション重視の社会からはみ出した評価されない人を活用できれば短所を克服しつつ長所を伸ばせるかも知れない。

そろそろ一か八かの政策が出てきても良さそうなものだ。

 

何でもかんでも競馬に例えてしまうのが悪い癖なので、競馬は門外漢という皆様には読みにくいかもしれません。逆に競馬好きの皆様は法律経済のあたりがわかりやすくなるかも?