第3回将棋電王戦の見所とレギュレーションの是非

電王戦リベンジマッチ。ニコニコ動画で2013年の終わりを告げたイベントのひとつだ。昨年4月に開催された第2回将棋電王戦において、船江恒平5段と将棋ソフト『ツツカナ』との対局が組まれ、船江5段の敗北という結果に終わった。そのリベンジマッチとして大晦日に組まれた本局では、逆に船江5段が圧勝。将棋界を大いに盛り上げた一局として、後々まで語り継がれることだろう。
 
プロ棋士と将棋ソフトの対戦は、今に始まったことではない。当時はまだそれほど注目が集まっていなかったものの、渡辺明竜王(当時)とBonanzaが対局したこともある。2007年のことだ。そのときは渡辺竜王の勝ちだったが、既にプロ敗北の兆しは見えていた。Bonanzaの対局内容に遜色がなかったからである。第2回電王戦が始まる直前、筆者の予想は○●○●●の2勝3敗でプロ敗北。特に第4局は十中八九ソフト勝ちだと読んでいた。塚田先生、お赦しください。

さて、コンピュータはプロ棋士を超えるのか……。実はこの問題、一筋縄ではいかない側面を持っている。以下、素人ながらも、筆者の考えを述べてみたい。

まず、コンピュータがプロ棋士を超えるとは何なのか、ということだ。この問いは簡単なように見えて、そうでもない。ハードとソフトの関係がある。しばしば、「ソフトが人間に勝つ」ことと「コンピュータが人間に勝つ」ことは、同じだと思われているが、実際は違う。これはチェス界隈で、とうに認識されていて、開発者たちは低スペックのハードで勝つことを目標にしている。その象徴が、2009年のアルゼンチンでの出来事だ。アルゼンチンの上級大会に出場したチェスソフトPocket Fritz 4が、9勝1分の成績を残し、グランドマスター級と評価されたのである。ところがこのソフト、1秒間に2万局面しか読めない。2万局面も読めたら凄いじゃないか、と思われるかもしれないが、1996年にカスパロフと対戦して敗北したDeep Blueは、当時のスーパーコンピュータを活用し、1秒間に2億局面読むことができた(但し、1997年には再戦して、2勝1敗3分で勝利している)。つまり、ソフトの性能だけで見れば、Pocket Fritz 4の方が、Deep Blueよりも圧倒的に優秀である。Deep Blueはチェス専用のプロセッサを搭載していたのに対して、Pocket Fritz 4はスマートフォンで戦った。Deep Blueはチェス専用コンピュータだったが、Pocket Fritz 4はチェス専用ソフトなのだ。特殊なハードは持っていない。

チェスの進化が示すコンピュータとソフトの違い。「コンピュータが人間に勝つ」ことと、「ソフトが人間に勝つ」ことは異なっている。はたしてコンピュータ将棋の醍醐味とは、「より強い将棋専用マシン」を堪能することなのか、それとも「より強い将棋ソフト」を堪能することなのか、この点はまだ十分論じられていないように思われる。その両方だ、という回答もありうるだろう。このことが論じられないうちは、レギュレーションの問題も片がつかない。レギュレーションの設定は、より低いハードスペックで勝てるソフトの開発を要求するので、最強の将棋マシンを見たい人には物足りないはずだ。逆に将棋ソフトの強さを見比べてみたい人は、無制約なハードの持ち込みに「コレジャナイ」感を覚えてしまう。ハードの進化とソフトの進化を完全に切り離して論じることはナンセンスかもしれないが、第3回電王戦を楽しむ上でも、ひとつのチェックポイントになるのではないだろうか。

※画像は、http://photomaterial.net/e0051/からお借りしました。

ドイツで法律の勉強をしていました。ドイツ国内にいると、日本の情報が誤解された形で海外へ伝わっていたり、海外の情報が誤解された形で日本へ伝わっていると感じることがあります。例えば原発関連で、ドイツ人は「日本人は被曝の状況について政府に騙されている」と信じている人が多く、これは少し困りものです。他方で、移民政策などについては、メルケル首相の「移民政策の失敗」を引き合いに出して(これ自体数年前の発言ですが)、ドイツが急激な移民排斥を行ったと考えている日本人もいますが、これは間違いです。海外経験者の身として、少しでもそのような「捻れの解消」に貢献できればいいな、と考えています。また郷土史や近現代の思想史にも興味があり、少しずつですが調査の対象を広げています。記者の経験はないのですが、少しでもお役に立てれば光栄です。

Twitter: InabaKotaro