2013年ドイツ連邦議会総選挙 史上3度目の大連立か?

  by 稲葉孝太郎  Tags :  

2013年9月22日、ドイツでは連邦議会総選挙が行われた。結果は当初の予想通り、保守派すなわちドイツキリスト教民主同盟(CDU)とその姉妹政党バイエルン・キリスト教社会同盟(CSU)の大勝である。これにより、第三次メルケル政権の誕生はほぼ確実となった。

とはいえ、これを単純な保守回帰と特徴付けることはできない。2009年に行われた総選挙において、CDUは既に第一党を確保しており、日本で見られたような政権交代が行われたわけではないからだ。さらに、同じ中道右派であったFDPは今回大幅に議席を減らし、連邦議会参加の条件である5%の得票率を割ってしまった。ドイツの選挙法には『5%ハードル』(Fünfprozenthürde)という条項が存在している。得票率が全体の5%未満である政党には1議席も与えられないのである。2009年以来の第二次メルケル政権はFDPと連立しており、これは必ずしも右派一般が支持されていないことを示している。

このFDPの脱落は、今後の政権構想に大きな影響を与える可能性が高い。そもそもCDU/CSUは、今回の選挙でも単独過半数を獲得できていない。したがって、いずれかの党と連立する必要がある。その最有力候補と見られていたのが、同じ保守同士で方針の似通っているFDPであった。そのFDPが候補から外れた以上、CDU/CSUは、他の連立相手を探さなければならない。そしてここでも問題になるのが、前述の5%ハードルなのである。今回の総選挙ではユーロ脱退を標榜する新興政党AfDが急激に勢力を伸ばしたものの、4.7%の得票率で議席0という結果に終わっている。この流動票の消滅により、2013年総選挙で議席を割り振られるのは、なんと4党しかない。CDU/CSU(311議席)、中道左派のSPD(192議席)、左翼党のLinke(64議席)、そして環境保護などを強力に押し進める緑の党Grüne(63議席)がそれだ。CDU/CSUは、これら左派3政党のいずれかと連立する必要に迫られている。

この左右混合政権の可能性は、選挙前から認識されていた。というのは、総選挙の前哨戦と見られていたバイエルン州議会選挙において、同じ結果が出ていたのである。すなわち、バイエルンの地域保守政党であるCSUが大勝し、FDPが脱落した。このため、CDU/CSUは事前に他党と交渉を進めており、SPDとの大連立もありうるということが、選挙前から報道されていた。日本で言えば、自民党と民主党が連立するようなものである。両者の合計議席数は70%を超え、残りのLinkeとGrüneを圧倒する。一見困難に思われる左右の連立だが、ドイツはこれをキージンガー政権(1966-1969年)および第一次メルケル政権(2005-2009年)で経験済みだ。Grüneをパートナーに選ぶ可能性が残されているとはいえ、メルケル党首は選挙後にSPDへ連立の打診を行った模様。SPDが強硬な姿勢に出ない限り、4年ぶりの大連立が予想される。もっとも、SPDは前回の大連立時に従来の支持者層を失っており、話はそれほど簡単ではない。保守党と手を組めば、左派としての独自性を喪失することになるかもしれないのだ。

ここ数年の保守回帰の流れは、もはや日本に限定されたものではない。しかしそれは、保守という単一の基盤が支持されているということを意味しない。今や左右の対立は崩れ、個々の政策が、とりわけ経済政策における妥協点が模索され始めている。今回のドイツの総選挙は、それを如実に現した結果と評価することも可能であろう。

※画像は、Franz Kuehmayer氏のTwitter公開画像をお借りしました。
https://twitter.com/franzku/status/381902066978799617/photo/1

ドイツで法律の勉強をしていました。ドイツ国内にいると、日本の情報が誤解された形で海外へ伝わっていたり、海外の情報が誤解された形で日本へ伝わっていると感じることがあります。例えば原発関連で、ドイツ人は「日本人は被曝の状況について政府に騙されている」と信じている人が多く、これは少し困りものです。他方で、移民政策などについては、メルケル首相の「移民政策の失敗」を引き合いに出して(これ自体数年前の発言ですが)、ドイツが急激な移民排斥を行ったと考えている日本人もいますが、これは間違いです。海外経験者の身として、少しでもそのような「捻れの解消」に貢献できればいいな、と考えています。また郷土史や近現代の思想史にも興味があり、少しずつですが調査の対象を広げています。記者の経験はないのですが、少しでもお役に立てれば光栄です。

Twitter: InabaKotaro