「ゆるさ」というスタイル

  by 白井 京月  Tags :  

 

いろいろな世代がある、戦後の復興、高度経済成長、バブル、失われた20年。どの時代を生きたかで価値観に傾向が出るのは当然だ。いまも上昇志向に洗脳されて自己啓発書とやらを乱読する落ちこぼれも多いし、逆に心理学やスピリチュアルという実体のないものに嵌る人も少なくない。個人的には、弱者から金をむしりとるビジネスは嫌いだ。

今のトレンドは「ゆるさ(緩さ)」だ。ゆるキャラは大人気だし、ちきりんさんは「ゆるく考えようー人生を100倍ラクにする思考法」という本を書いている。ゆるい生き方。それは成長や成果、貢献などに価値を置くのではなく、いかに快適に日常を過ごすかを重視した生き方である。

ある統計では、先進国においては所得が増え、生活水準が上がると幸福感が落ちるという面白い結果がある。豊かさと安心を求めて、年間2000時間以上働き、それで1000万円の収入があったとした場合、いったい日常生活にどんな楽しみがあるだろうか。そしてまた明日からも頑張って働き続けないと転落するとしたらどうだろうか。

仕事が楽しいものならば、それも悪くはない。しかし、人生を考える時間もなく追われるように仕事をするという状態は異常だ。努力を否定はしないが、努力が報われることは現実には稀だ。モノも情報も過剰に存在し、便利過ぎるこの時代に、「楽に生きたい」という思いが強くなるのは当然だろう。

野球もサッカーもテレビで楽しめる。友達とはリアルで集まらなくてもニコ生やスカイプで集まって話ができる。そこそこに働いて、楽しく生活できればそれでいい。野心や欲望など特にない。そう考えている若者が増えているし、これからも増えるに違いない。

いや、若者だけではない。中高年も「ゆるさ」に舵を切り、価値観をそしてライフスタイルを変えて行く人が増えると思われる。

そんな人が増えたら社会が瓦解すると心配する人がいるかもしれない。ゆるい生き方など堕落だと非難する人もいるだろう。しかし、これは必然的なことであり、ゆるさは日本のトレンドなのだ。そして、ゆるさの中から新しい文化が生まれるのである。むしろ新しい日本のためには、高度成長期のメンタリティを払拭することが重要なのだと私は考える。

フリーの哲学者。作家。詩人。ポパー的可謬主義者であるとともにローティ的アイロニスト。 テオリア(観照)のある生活を理想としている。静かなる社会派。目標は可愛いお爺ちゃん。

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