ボンハンバーガーとは何か?

  by 戸田健太郎  Tags :  

ボンハンバーガー』の『ボンバーガー』が美味いらしい。

そんな話を友達に聞かされる。ボンハンバーガー?ボンバーガー?ハンバーガーに目のない僕ではあるが、全く聞き覚えのない単語だ。それなのに大阪在住の友人のうち何人もがその名前を知っているという。大阪にだけ存在するハンバーガーチェーン店という。マクドでもモスでもバーガーキングでもない。ボンハンバーガーという大阪固有のハンバーガーチェーン。僕だって大阪の人間だ。大阪で何十年も暮らしてきた。なのに今の今までボンバーガーを知らなかったなんて。アイスクリームストッカーの中の冷凍ホウレンソウのような疎外感を覚えてしまった。詳しく教えてもらうと、どうやらそれは大阪市東住吉区針中野あたりにあるものらしい。そんな場所には行ったことが無かった。

よし、行ってみよう。

ボンハンバーガーというお店

調べてみると、ボンハンバーガーのある針中野への最寄り駅は、近鉄南大阪線の針中野駅でもよいけど、地下鉄ならば谷町線の駒川中野駅も近いようだ。初めて降りたった駒川中野駅周辺は、道幅の広い南港通りと、すぐ上を走る阪神高速が平行に交わる地点にあたり、高速への出入り口のある関係上、なかなかの交通量の多いところ。大阪市のなかでも天王寺からさらに南に位置しており付近には長居公園もある。住宅エリアではあるのだけど、店のある今里筋までずっと広い道路をテクテク歩いていかねばならない。

南港通りから今里筋に入ってから15分ほど歩いただろうか。実際は10分も歩いていなかったかもしれない。あるいはもっと早かったかもしれないが、初めての土地をひたすら真っすぐ歩いていると目的地までがやたら長く感じてしまう。やっとボンハンバーガーらしき看板が見えてきた。

普通だったら、ハンバーガー屋セットなんていうものは、好みのハンバーガー+ポテト+ドリンクという単純なものだ。ところがボンハンバーガーは、その基本形のセットにくわえて、ハンバーガー+ハンバーガー+ドリンクというスタイルと、ハンバーガー+ハンバーガー+ポテトという変則的なセットも提供している。やたらハンバーガーを食わせようとするのは味に自信があるがゆえなのかもしれないが、それにしてもドリンクがつかないというのは斬新だ。そして一見して何が得か損かよくわからない。

入店後にまごつかないように、自分の注文したいメニューを頭のなかで整理して、どのセットを組み合わせていけばベストなのか計算してみようとしたが面倒になった。ハンバーガー+ハンバーガー+ポテトに飲み物を追加注文すればきっと解決するだろう。間違いは無い筈だ。思いきって中に入る。

たいして広くもない店内はガランとしていて客は僕だけ。時間帯も昼時をやや過ぎていたのでさもありなんかもしれないが、昼時だからといってやたらと混雑しているような想像をするのも難しい。店長らしきオッチャンが1人で働いていた。僕に気がつくとさっそく注文を聞いてくれる。先ほどのメニュー表でシミュレートした通りの注文をする。

「ボンバーガーとハムバーガーとポテトのセットと……あとオレンジジュースを下さい。」

「ハイハイ、ボンバーガーとポテトとドリンクのセットに、ハムバーガー追加ね!」

「え……そ、そうなるの?」

「ハンバーガー2個のセットにジュース付けると1040円やけど、ボンバーガーセットにジュース付けたら1010円やねん!」

流れるようにさらさらと笑顔で答えるオッチャン。やはり計算上の罠があったのか。さすがメニューを熟知している人は違う。しかしそんならあの煩雑なメニューをもうちょっと整理して欲しかった。

注文した品が出来上がるまで、4つくらいしかないテーブルのひとつに座って待つ。忙しく注文品を作っているらしいオッチャンがなぜか快活にトークを始める。「さっきまでお客さんがつめかけてて、忙しくててんてこ舞いやってなー。」「この前テレビに取材されたから、それ見てお客さんがきたんやろな。」「以前は難波店もあったんやで。」どこまで本当か嘘かよくわからないけど、こういう特異なハンバーガー屋がずっと営業しているのは事実なので、オッチャンが元気ならばそれで良さそうだ。こういうオッチャンが作るボンバーガーってどんな味なんだろうか。

しばらくオッチャンのトークを聞いていると、ボンバーガーとハムバーガーとポテトとオレンジジュースが出来上がった。ファストフード店というわりには時間がかかった方ではないだろうか。ともかく、オレンジジュースを飲んでみる。ジャリっとた食感と、甘くて濃度の高そうなそれはスムージーか何かのよう。これは変わっている。オッチャンがさっそく「美味いやろ?」と声をかけてくる。セットの付け合せのフライドポテトをつまんでみたが、これはさすがに普通の冷凍フライドポテトと変わらない。問題はハンバーガーだ。

これが『ボンバーガー』。ボンバーとバーガーをかけあわせているのか。そもそも店名の『ボンハンバーガー』の「ボン」が何を意味するのか尋ねるのを忘れてしまった。ボンバーガーはオレンジ色の特製ソースがウリのようだ。食べてみるとなかなか野暮ったい味がする。厚ぼったいバンズも、もちもちとしたハンバーグも、家で作る感じというか惣菜的というか。でも決して不味くはない。良い意味で家庭的、手作り感のあるハンバーガーだ。出来上がるまでにちょっとだけ時間がかかるのもそういうことだろう。あまりオートメーション化されていない雰囲気だ。僕は瞬く間にボンバーガーを平らげた。どぎついオレンジ色のソースの味自体は、特にとんがったものではなく、自然に口に馴染んでしまった。

またしてもオッチャンが笑顔で声をかけてくる。

「美味しいやろ!?」

「はい美味しいです。」

『ハムバーガー』。自分でも何故これを食べたかったのかよくわからない。ハンバーガーを2種類食べようと考えていたら自動的にこれに決めてしまっていた。ごくごく普通のボンレスハムが3枚ほど入っていて、トマト、レタス、そして卵焼きをバンズで挟んである。ボンバーガー以上に家庭的な一品。かじってみれば家で作るハムタマゴサンドに近い味。沖縄郷土料理に『ポーク玉子』というのがあるが、それを思い出してしまった。たしかボンハンバーガーにはサンドイッチのメニューがいくつかあった。サンドイッチのバーガー版という位置づけなのかもしれない。サイズもそんなに大きくない事も手伝って、瞬く間にこちらも平らげてしまう。

オッチャンが嬉しそうに話しかけてくる。

「どや、また来たいやろ?」

「はい来たいです。」

 

オッチャンにご馳走様でしたと言って、ボンバーガー針中野店(そしてチェーン本部だ)を後にする。ハンバーガー2つとポテトとオレンジジュースを食べた僕は腹がパンパンになってしまった。オレンジジュースのドロっとした濃度と同じく、店自体の濃度もなかなかのものだった。この体験で1010円は安かったかもしれない。ボンハンバーガーの味を反芻しながら駒川中野駅まで戻る。いちど歩いてきた道だったせいか、帰りはやけに早く駒川中野駅に着いてしまった。

大阪よりインターネットラジオBS@もてもてラジ袋を毎週配信。 http://www.moteradi.com/ 市民生活の専門家。易者。自由律俳句を詠む。 旅と読書と麺類(特にうどん)とファストフードとアルコールをこよなく愛している。 日本各地の大衆居酒屋や立ち飲み屋めぐりも趣味。 JR天満駅周辺の格安飲み屋に常駐している。

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