京都・祇園祭の地元的愉しみ方

  by 戸田健太郎  Tags :  

7月1日。京都での祇園祭が幕開けした。祇園祭は毎年7月1日から31日までの日程で開催され、この期間は京都市内のどこかしらでは神事やイベントが行われ、写真にあるような山鉾(やまほこ)と呼ばれるものがメインの通りに建てられはじめ、京都の街がお祭りムード一色に染まっていく。観光的には巨大な山鉾を引き回す山鉾巡行と、そのプレイベントである宵山(よいやま)が有名だろう。

祇園祭は1100年ほどの歴史があるそうだ。そう言われると格式や伝統に圧倒されてしまいそうだし、全国的にも知られている大祭だけに「人が多そう」「観光的なものにはあまり興味がない」と、ついつい距離を置いてしまうという種類の人間もいる。僕がそうだった。祇園祭の期間はなんとなく京都に近寄るのを避けていた。しかしある時に思いきって飛び込んでみると、祇園祭には祇園祭なりの愉しさがあるもので、それからはこの季節をなんとなく心待ちにするようになった。この愉しみを僕みたいな人間にも伝えたい。

そこで今回は祇園祭のうちでも宵山と呼ばれるものに焦点を絞って、神事にも観光イベントにもあまり興味のない地元的なゆるい愉しみとしての祇園祭を紹介していこうと思う。といっても僕も本当のところは京都在住の人間ではないので、もっと遠方の人が京都に旅行にくるという視点で参考にしてくれても良い。地元的というのも、本当の地元民がそうするということではなく、気張らず普段着で愉しむ祇園祭宵山というイメージだ。

宵山とは

2013年の日程では、7月14日(日)~7月16日(火)が宵山ということになっている。各日の18時~23時まで四条通りの一部が歩行者天国になる。この3日間ほどは京都市内のメインのエリアが完全にお祭りモードの全開になる。それも神事としてのお祭りではなく、夜店が立ち並び、物見遊山の人で溢れかえり、飲食店が大いに繁盛する浮かれた雰囲気だ。だから祇園祭を愉しむにはこの宵山の期間にふらふらと京都市内に出かけてみれば良いのである。

四条烏丸あたりが祭りのハイライト地点なのかもしれないが、河原町や京阪電車の三条駅や四条駅あたりでも構わない。あちこちに提灯がぶら下がって、祇園囃子が聞こえてくる。どこへ行くあてがなくとも街全体がお祭りだ。歩行者天国の時間まで待つ必要もない。時間がとれるならば午前中や昼間から適当に散策してみると面白い。これだけ広いエリアが一斉に祭りの雰囲気に模様替えしてしまうというのはなかなか無い。宵宮の意味とかを知るのは後になって興味が出てきてからで構わない。心の赴くままにあちこちの通りや路地を覗いてみて、夜店をひやかしたり、適当な飲食店に入ってみたり、好きなスタイルで過ごすのがゆるく愉しむコツだ。細かくチェックすれば各種のイベントがあちこちであるのだが、そういうのにこだわりだすと一気に観光ぽくなって疲れてしまう。特に目的もなく、何処へ行くでもなく、適当に過ごすのが肩肘張らずに愉しもう。

市内を適当にほっつき歩きながら観察していると、宵山に集まっている多くの人の流れも、特に何処へ向かっているということでも無いことに気がつく。せいぜい河原町の鉾を見にいこうとか、烏丸通りあたりの夜店に行こうとか、その程度だ。一斉に何かをしなくちゃいけないイベントなどは無いのだ。この時間と空間を愉しんでいるだけだ。そう考えると楽な気持ちになる。適当さとゆるさが宵山の醍醐味なのだ。

自堕落に祭りを過ごす

好きに過ごせといっても「じゃあ何をするのさ?」と途方に暮れる方もいるかもしれない。ラーメンが好きな人は気になる京都のラーメンを食べに行ってもよい。カフェーが好きな人は喫茶店をはしごするのでもよい。そこに祭りの雰囲気をスパイスのようにふりかけるのが宵山の醍醐味だ。とはいうものの「後はお好きに」というのでは祭りの愉しみ方を謳う記事としてはあまりにも不適切なので、僕の2012年の祇園祭宵山の過ごし方をモデルケースとして紹介してみようと思う。あまりに自堕落すぎて呆れられてしまうかもしれないがこんなやり方も許容するのが宵山の懐の深いところだと知って欲しい。真似をする必要はないが、何かの興味を持たれるきっかけになってもらえれば幸いだ。

実録!2012宵山の一日

昼過ぎに京都到着。五条の『ラーメン藤』というラーメン屋が気になっていたのでまずそちらに向かう。15時までのタイムサービスの時間にぎりぎりで間に合ったので唐揚げセットを注文。熱々の唐揚げで火傷しそうになったが美味くて満足した。お祭りとは全く無関係だが、こんな感じのスタートがちょうど良いと思われる。ゆるい愉しみをするためにはゆるいなりの始まり方がある。ヨーイドンで始まってしまってはダメなのだ。

腹ごなしも兼ねて五条から四条まで散歩しながら移動する。路地に古本屋を見つけてしばし物色。祭りにあわせてのことかセール中のようだが特に目当てのものも無し。そのままふらふらと歩き四条に到着する。四条から東に入ると祇園祭の主催である八坂神社だが、特に行かねばならない理由も思いつかなかったのでスルーする。まだまだ陽も高いので、北に上がって三条まで歩くことにする。鴨川沿いを歩くのは気持ちが良い。このあたりにくると流石に祭り目当ての人が大勢目に付く。なんとなく祭り気分も高まってくる。高まりすぎたのでコンビニに寄ってビールを購入。飲みながら歩く。

三条大橋を渡ってアーケード商店街である新京極・寺町に行ってみる。この間にもコンビニで缶ビールを補給。祭り期間中はゴミ箱もあちこちに設置しているので、飲み食いしながら歩いても特に困ることはない。アーケードにある楽器店『JEUGIA 三条本店』ではミニライブイベントが開催されていた。またこの店はアニメ『けいおん!』の聖地としても知られているため『けいおん!』のキャラクターを模したマネキンが設置されていたのだがその恐ろしさに少したじろく。この辺りから祭りの渦中にいることを自覚し始める。

アーケードの店などをしばし見てまわる。そこから西の烏丸通りまで抜けるために適当な通りをくねくねとわざと曲がりながら散策していく。その辺りにも夜店が出ているし、各種のお店も祭りにあわせて軒先に様々なものを出している。個人的には夜店でものを買うよりも、店の軒先で出している料理などが気になる。普段は入れないお店の味見になったりすることもあるし、ずいぶんとお得なものを見つけることもある。その辺は好きに愉しむに限る。やけに長い行列があると思えば単なる焼きそば屋台だったり。なぜ人気なのかはさっぱりわからない。ビールなど飲み物はコンビニがたくさんあるのでそちらで購入する。現代の祭りにおけるコンビニは、夜店に取って代わる存在としても確立しつつある。夜店でビールを売っているすぐ横で、コンビニが普通に営業しているなんてざらに見る光景。もちろんコンビニで買うほうが安いのは言うまでもない。ただし宵山の期間はトイレの貸出をやっていないコンビニもあるので御注意。

烏丸通りに到着すると大変な賑わいぶり。ここから下っていって四条烏丸のあたりまで行くと混雑も最高潮に達する。あまりメインストリームに長くいると疲れてしまうのでビールを飲みながら適当な横道にそれていく。どこの通りに入っても聞こえてくる祇園囃子のチンチンドンドンという音でトリップしそうになる。祭りとクラブシーンってあまり変らない。疲れてきたら一時的に祭りエリアの外に出るのもひとつの手だ。空いてそうな店があったら入ってしまっても良い。お祭り価格でないような普通の店がよい。

コンビニに入ると珍しい瓶ビールが売られていた。しかもキリンラガーの祇園祭の特別のラベルだ。さっそく購入してみる。こういう事もあろうかと、栓抜きは常備してあるのだ。瓶ビールをラッパ飲みしながら歩くなどというのは日本では無法者になってしまうが、祭りだから許される空気がある(ような気がしているのは僕だけかもしれないが)。外国製の瓶ビールだとそのまま飲んでも構わない雰囲気があるのに、日本製の瓶ビールだと途端にガラが悪い。不思議なものだ。けっしてオススメするわけではないが、こういう事もあったということで。

さすがに少し疲れてきたので、祭りのエリアの外れまで歩いていく。完全にエリアの外の四条大宮にある『餃子の王将 四条大宮店』で休憩。さすが本店にあたる店(王将では本店と言わずに一号店と呼ぶ)だけあってビルひとつが上から下まで王将。席にも余裕がある。ここで餃子をつまみながら英気を養う。祭りだろうと祭りでなかろうと王将は王将なので安心する。それでいて京都を代表する飲食店でもある。素晴らしい。餃子の皮も良い具合にパリパリだ。

餃子でスタミナもついたところで宵山のメインストリートである四条通りに挑む。山鉾巡行でいうところの鉾(ほこ)とよばれる最大サイズの山車が設置してあり人混みも半端ではない。夕普段ならば車の交通量も多い四条通りに、巨大な鉾が提灯の明かりを身にまとい暗闇の中にそびえ立つ。それらの明かりが遠目からもぽつぽつと浮かび上がる様子は、祇園祭における非日常の極みでもある。テンションを上げていくためには見物していくのをおすすめしたい。おすすめするまでもなく付近をふらふらしていれば一度は通りかかるとは思うが。

四条通りの非日常を味わったあとは、人混みを避けて錦市場に退避する。錦市場も観光名所として普段から人通りの多い市場通りだが、夜の時間になるとほとんどの店が閉まっていてそれほど混雑することもない。ここで意外なものを発見してしまう。錦市場の鮮魚店などが店先を利用して簡易の居酒屋を開店しているのだ。祭り期間中だけの特別営業ということだろう。これは楽しいに違いない。なんとか隙間から混ざって飲んでいきたい。

この錦市場を東に抜ければ寺町のアーケードに戻る。23時になると歩行者天国が解除されて、一気に祭りムードも終了になる。それまでは僕のように飲みながらふらつく人間、道にへたれこむ人、熱心に山鉾を見物する人、それぞれが祭りを愉しんでいる。言葉を交わすわけでもないが同じ空間を共有しているという感覚がとても幸せだ。ちょいと気分をかえて寺町のゲームセンター(その筋では有名な『a-cho』という店だ)を覗いてみれば、何やら格闘ゲーム大会が開催されていて、ゲームオタ達が大いに盛り上がっていた。こういう愉しみ方もあるのかと感心する。少しばかりゲームに打ち興じて、その後に京都らしからぬ安いお寿司屋さんの『とみ寿司』で握り寿司をつまむ。そんな方向転換もありうる。街全体が夏休みの縁日的なゆるさに包まれているようだ。

京都は外面の街といわれる。一年どの季節も観光客を受け入れ続け、常に外からの客を意識するのだから当然といえば当然だろう。しかし宵山のこの瞬間においては(特に観光客がどっと増える期間ではあるけれども)京都の泥臭い部分や本音の部分がふと見え隠れするように思うのだ。老舗店と呼ばれるお店が、店先に商品を並べてまるでテキ屋のように売り込む姿などは微笑ましいし、山鉾なんかも町内それぞれで保存管理しているものだ。

とりあえず祭りだ観光だと気負わずに、ビール片手にぷらっと宵山散歩に出てみてはどうだろうか。

 

祇園祭2013の本当の詳しい見所や日程はこちらを参考に。
http://kyoto-design.jp/special/gionmatsuri

大阪よりインターネットラジオBS@もてもてラジ袋を毎週配信。 http://www.moteradi.com/ 市民生活の専門家。易者。自由律俳句を詠む。 旅と読書と麺類(特にうどん)とファストフードとアルコールをこよなく愛している。 日本各地の大衆居酒屋や立ち飲み屋めぐりも趣味。 JR天満駅周辺の格安飲み屋に常駐している。

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