ドイツの少女漫画事情 やっぱりドイツ人は日本人に似てる!?

  by 稲葉孝太郎  Tags :  

1 はじめに

漫画。それは東洋の島国ニッポンの一大コンテンツである。交通システムと通信技術の発達した現代において、漫画はMANGAとなって海を渡り、世界各国で愛される日本文化を形成するようになった。

そんなMANGAの海外展開について、これまでは、日本の漫画に対する海外の反応という形で紹介されることが多かったように思う。『ドラゴンボール』や『ワンピース』などの超メジャー級少年漫画が世界中で盛んに読まれていること、また『セーラームーン』を始めとする少女漫画人気も、ファンの方々には周知の事実であろう。

そこで今回は視点を変えて、海外のMANGAに対する日本の反応をテーマに、海外展開した漫画が、どのように受容され、どのようにアウトプットされているのかを、ドイツの少女漫画業界を中心にご紹介したい。

2 ドイツで活躍する少女漫画家たち

ドイツのMANGA家たちを一べつして最初に驚くのは、著名な人物の多くが女性であり、かつ作風が少女漫画だということである。日本でも比較的名前が知られているのは、邦語で電子書籍化もされたアニケ・ハーゲ(Anike Hage)さんであろう。

その他の古株として、ナタリー・ヴォルムスベッヒャー(Natalie Wormsbecher)さんも挙げられる。ヴォルムスベッヒャー女史の長編『Life Tree’s Guardian』は、現代社会で生きる少女が異世界の住人に恋をするという、少女漫画におけるテンプレのひとつである。

さらに、『Manga-Fieber』『Paper Theatre』『Blütenträume』などの同人誌も含めると、少女漫画家はかなりの数に上る(ドイツでは漫画掲載の機会が依然として少ないため、同人誌は重要なメディアとなっている)。

王道少女漫画の勢いに乗って、やおい業界も盛況だ。ドイツで漫画賞を受賞したアンナ・ホルマン(Anna Hollmann)さんは、ボーイズラブで著名なマンガ家である。また、有名歌手とそのファン、そして敏腕プロデューサーの三角関係を描いた、ゾフィア・ガルデン(Zofia Garden)さんの『Killing Iago』も見落としてはいけないだろう。これは筆者の主観的な評価になってしまうが、ガルデンさんの作品は、そのまま翻訳すれば日本でも売れるのではないかと思うほど、絵と話のクオリティが高い。

3 研究対象にもなる少女漫画

あの緻密なドイツ観念論を生んだ土壌だけあってか、ドイツ人は漫画を学術的に分析することも好きなようだ。ベルンド・ドレ・ヴァインカウフ(Bernd Dolle-Weinkauff)博士は、1980年代から漫画の研究を続けているベテラン研究者である。博士は、フランクフルト大学が発行している『Forschung Frankfurt』の2012年3月号に、一本の論文を掲載した。タイトルは『赤ずきんちゃんがオオカミと結婚するとき』(Wenn Rotkäppchen den Wolf heiratet)、かつてドイツ在住だった日本人漫画家、石山ケイさんの『漫画グリム童話』(Grimms Manga)を巡る議論だ。石山ケイさんは、『漫画グリム童話特別版』(Grimms Manga Sonderband)をドイツの漫画家たちから献本されるほどの影響力を持った方だが、現在はアメリカでご活躍中のようである。

さて、この論文の中から、少し長くなるが、一部引用してみよう。

しかし、これらの物語にある本来の面白みは、少女マンガ的な演出にある(少女マンガに固有な物語の進め方および描写方法をも含む)。かくして、物語は、ダイナミックなレイアウトを伴う、猛スピードで展開される一連のコマ割りで描き出され、それぞれのコマが、感情的な動と静の推移で揺れ動いているのだ。擬人化された動物たちは、その際、《可愛さ至上主義》にもとづいて根本的にデフォルメされ、そして女性の主人公たちは、非常にきゃしゃな身体でデザインされるとともに、あの有名な、皿ほどの大きさがある無邪気なデカ目で、人相付けされている。

(『Forschung Frankfurt』2012年3月号45ページより、引用者訳)

ドレ・ヴァインカウフ博士が、ここでいかに少女漫画の特徴を正確に把握しているかが分かるであろう。すなわち、少女漫画、ドイツ語で言えばMädchen-Comicは、以下の2点で特徴付けられる。

・カワイイ(Niedlichkeit)
・皿ほどの大きさがある無邪気なデカ目(treuherzige, tellergroße Augen)

無論、これが全てというわけではないが、少女漫画ファンの方ならば、いずれも首肯できる内容であろう。

4 日本側からの反応

さて、ここまで、ドイツにおける漫画文化を、十分ではないにせよ概観し終えたと思う。以下では、日本側の反応を見て行こう。方向性は、おおまかに3つある。

ひとつ目は、ドイツ語→日本語への翻訳である。残念ながら、ドイツ人漫画家の作品が翻訳として日本で出版されることはほとんどない。筆者が知っている唯一の例外は、ハーゲさんの『ゴシック・スポーツ ~結成! ゴスロリ・サッカー部~』である。出版という行為がボランティアでない以上、採算の見込めない翻訳はできないということなのだろう。

ふたつ目は、日本の出版社がドイツで雑誌を発行し、若手の育成を図る方向である。これに大きく貢献していたのが、白泉社の『DAISUKI』であった。本誌は元々、同社の少女漫画雑誌『LaLa』のセレクトコレクションだったのだが(『ヴァンパイア騎士』『会長はメイド様!』などが毎月ドイツ語へ翻訳されていた)、同時に、ドイツ人少女漫画家たちの発表の場でもあった。そして、ついに『DAISUKI』誌上で連載権を獲得する作家が出たのである。スイス在住のエヴェリーネ・ヴェッシュ(Evelyne Bösch)さんだ。 彼女は『Feed me Poison』という読み切り作品を掲載した後、そのまま改稿して長期連載という、日本でもよく見られるキャリアを歩み始めていた。内容は、ある国の王女様を毒殺する任務を負った暗殺者が、その王女の使用人として生活するというもの。ところが、リーマンショックを始めとした折からの出版不況により、『DAISUKI』は2012年6月号をもって休刊、『Feed me Poison』も第4話で中断という結末を迎えてしまった。同誌に読み切りを載せた女性漫画家として、他にシモーネ・シエ(Simone Xie)さんとアンドレ・リンケ(Andre Linke)さんの実力派コンビもおり(2012年2月号に共作で『Turn Around』を掲載)、日独の漫画交流の機会が減少したことは、大変残念な出来事と言わねばならない。但し、ドイツの少女漫画家たちは、雑誌掲載ではなく書き下ろしから単行本を出すパターンの方が多い。したがって、『Feed me Poison』も将来何らかの形で出版されるのではないかと期待している。

みっつ目は、ドイツではなく日本で直接デビューを目指す方向性である。有名なのは、カロリン・エックハルト(Carolin Eckhardt)さん(『となりのヤングジャンプ』で『奥さま Guten Tag!』をウェブ連載)であろう。無料なので、興味のある方は、ぜひご一読いただきたい。もっとも、彼女の作品は、少女漫画という枠組みでは捉えられないものであり、純粋な少女漫画家として日本国内でデビューを目指すドイツ人がいるのかどうか、筆者は寡聞にして知らない。続報が待たれる。

5 おわりに

以上、不勉強ながら、ドイツにおける少女漫画事情をお伝えしてきた。かつて、ドイツ文学が盛んに日本語へ翻訳されていた時代、日本はドイツとの異文化交流に熱心であった。ドイツの少女漫画界には、日本ではほとんどオマケ扱いになってしまった家族をテーマにした作品や、70年代を連想させる社会風刺的描写など、注目してよい側面がある。これを、ドイツの漫画が日本に追いついていない証拠と見るか、それとも、日本の漫画が忘れてしまったものに対するリマインドと見るか、それは読者の見識に委ねたい。

いずれにせよ、MANGAを通じたさらなる交流が期待されるところだ。

画像:2000ピクセル以上のフリー写真素材集より

ドイツで法律の勉強をしていました。ドイツ国内にいると、日本の情報が誤解された形で海外へ伝わっていたり、海外の情報が誤解された形で日本へ伝わっていると感じることがあります。例えば原発関連で、ドイツ人は「日本人は被曝の状況について政府に騙されている」と信じている人が多く、これは少し困りものです。他方で、移民政策などについては、メルケル首相の「移民政策の失敗」を引き合いに出して(これ自体数年前の発言ですが)、ドイツが急激な移民排斥を行ったと考えている日本人もいますが、これは間違いです。海外経験者の身として、少しでもそのような「捻れの解消」に貢献できればいいな、と考えています。また郷土史や近現代の思想史にも興味があり、少しずつですが調査の対象を広げています。記者の経験はないのですが、少しでもお役に立てれば光栄です。

Twitter: InabaKotaro