『落ち目のブーム』とは言わせない!ヌーヴォーの正しい楽しみ方

  by 茸本 朗  Tags :  

11月の第3木曜日は、世界で最も有名な新酒『ボジョレ・ヌーヴォー』の解禁日である。

いまやワインを飲まない人にもその名を知られているボジョレだが、毎年代わり映えのしない“褒め言葉”と、決して安くない割には濃厚とは言えない味わいに辟易している人も多いと思われる。(ちなみに今年はぶどうの実りがよくなかったため、安物はますますおいしくない可能性が高いとのこと)

かつてワイン輸入会社に勤めていた筆者としては、今のヌーヴォーの扱われ方はなんとももったいないような気がしてならない。ヌーヴォーはことさら「絶品!!」「高級!!」などと騒ぎ立てるものではないが、年に一度のお祭りとして個人や気の置けない仲間たちと楽しむのには良いワインだと考えている。

そこで、今回はヌーヴォーをより楽しむためのウンチクと、おすすめの楽しみ方をお伝えしたいと思う。

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1.ボジョレ・ヌーヴォーの基礎知識おさらい

よく「『ボジョレー』なの?『ボージョレ』なの?」という質問が聞かれるが、当地の人々は自分たちの村の名前を呼ぶとき『ボ・ジョ・レ』のようなリズムで発音していた。意外なことにアクセントも平板だ。
もし誰かにその質問をされたら、ドヤ顔で「ん~、どちらでもないね。むしろ3拍子?」などと答えてあげるといいだろう。

ちなみに『ボ・ジョ・レ・ヌ・ヴォ』という5拍子 (アクセントは「ヴォ」)で発音するとフランス語っぽさがより出るのでオススメ。

そもそもボジョレ・ヌーヴォーを英語にすると『ニュー・ボジョレ』で、ボジョレの新酒という意味のフランス語である。したがって、新酒であれば日本酒でも焼酎でもヌーヴォーだ。
なお、最近イタリアンレストランなどでよく見るようになってきた『ノヴェッロ』はイタリア語で同じ意味。したがって「イタリアのヌーヴォー」というのは正しくない。

ボジョレ村は『世界一高価なワイン』ロマネ・コンティで有名なブルゴーニュ地方にあり、土壌や気候が微妙に違うものの(専門語でミクロクリマという)全体的な環境としてはやや寒い傾斜地にある。日本でいうと晩秋の勝沼に近い。
ブルゴーニュでは一般的に、ロマネ・コンティの原料でもある『ピノ・ノワール』というブドウが育てられているが、ボジョレでは、地域独特の品種である『ガメイ』というブドウが育てられている。ボジョレ・ヌーヴォーはこのガメイから作られるのだ。(下の画像は国内で栽培されているピノ・ノワール。デラウェアよりも少し小さいぐらいのサイズだ。ガメイはもう少し粒が大きく房が小さい。)

ワインを知らない人にとっては想像が難しいかもしれないが、要はおいしくて高価な巨峰が育てられている地域の端っこで、安価で無名なベリーAを作り続けている人たちがいる、というようなイメージだ。(筆者はベリーAも大好きだが)
日本ならみんな巨峰に植え替えようと思うだろうが、フランスには原産地統制呼称(A.O.C)というものがあるため、別の品種にするようなことはまずありえない。
みんな地場の品種に歴史と誇りを持っていて、さらにその品種から作る製品をフランス政府が保証してくれるので、その土地だけのワインを作り続けるのだ。

このあたり、日本中どこの蔵元でも「兵庫県特A地区の山田錦を使用!!」なんて言ってしまう日本酒業界は、学べるところがあるんじゃないだろうか。現に長野県では地場の稲品種で作る高級地酒も出てきているしね。

なお、ガメイの収穫時期にはフランス全土からリセアン(高校生)が集まってきて収穫のアルバイトをする。日本の高校生と違い、普段は忙しくてアルバイトができない彼らは相当の気合でこの仕事に臨む。
背負いかごに入れたブドウはとても重く、また服はブドウ果汁でシミだらけになってしまうが、にこにこと笑いながら楽しそうに収穫作業を続ける彼らを見ていると、ヌーヴォーもまたいっそうおいしく感じられるものだ。

ボジョレ・ヌーヴォーは醸造方法も普通のワインと違っていて、『マセラシオン・カルボニック』という方法で作られる。

これは、密閉に近いタンクの中で発酵をさせることで、発生した二酸化炭素がタンクの中に充満し、アルコール生成がスピーディーに行われるのと同時に、ブドウの皮から効率よく色素が抽出されることを目的とする。
あわせてブドウの中の酸もまろやかに変化し、新鮮で飲みやすくなる。

一般的に渋みの強いワインは、寝かせて飲むことを前提として作られているので、すぐには飲めないのだが、ヌーヴォーは出来立てこそが飲み頃
新鮮で良質なヌーヴォーは、未熟性の渋い赤ワインよりもずっとおいしいはずなのだ。そのあたりは、あらばしりとひやおろしの違いを知る日本人ならきっとわかるだろう。

 

2.おいしいボジョレ・ヌーヴォーの選び方

ワインは基本的に、作り手のブドウ畑を見ることが一番の評価の基準になる。しかしわざわざ8月にフランスに飛んでいくのも骨なので、日本に居ながらにしておいしいヌーヴォーを判断する方法を、自己流であるが簡単に伝授したい。

●価格は100%ではないが、それなりの基準になる
そもそもボジョレ・ヌーヴォーは解禁日に間に合わせるため、飛行機に乗せて運んでくる必要がある。そのためにほかのワインと比べても価格が高くなってしまう。簡単な計算でも、1本あたり1000円弱が上乗せされることになる。
したがって、普段飲んでいるワインの価格帯+1000円で考えれば、ある程度満足のいくボジョレ・ヌーヴォーを見つけることができる。

なお、ペットボトル製品ならもっと安い価格で手に入るが、劣化のしやすさから生産者側が販売禁止運動を展開していることもあり、オススメはできない。

●ヌーヴォーに対して理解のある店で購入する
これはずばり“前年のヌーヴォーをいつまで販売していたか”で判断できると思う。

上記のとおり、ヌーヴォーは基本的にはすぐに飲むべき酒であって、決してセラーで寝かしておくものではない。ある程度気合を入れてヌーヴォーを売るところであれば、事前のプロモーションをしっかりやって在庫を残さないように努力をしているはずで、そういうところはこだわりのヌーヴォーを入荷していることが多い。それに対し、大量生産のメーカー品を入荷している店には、冬の間中ずっと販売し続けているようなところもある。
前の年、年内に売り切ってしまったようなお店なら十分信頼に足るだろう。

●同じ蔵元が作っているほかのワインを販売しており、それなりの価格で売られている
これはあまり多い事例ではないが、あれば有力な判断基準になる。

ボジョレ・ヌーヴォーは本来“その年のブドウの出来を見る”ための早飲みワインであり、テスト用のワインなのだ。したがって醸造方法の違いを考えたうえでも、ブドウの出来や収穫方法(手摘みか機械か、という違いは味に大きな影響を与える)、収穫後の扱いなどで蔵元の質が分かる。ごくシンプルに言えば、ヌーヴォーではない銘柄がおいしければ、その蔵元のヌーヴォーはおいしい

ガメイで作られているワインなら最高だが、ピノ・ノワールなどの別品種で作られているものでも判断基準になるだろう。
なお、完熟したガメイの、それも古木の果実で作られたワインはピノ・ノワールのそれと比べても遜色がない、というのが筆者の意見である。

その他、
●POPに気合が入っている・手作りである

●“古木”と銘打っている
●収穫時期が遅い

などの点でも判断することができるだろう。これらを踏まえ、財布と相談しながら自分だけの一本を見つけてほしい。

 

3.おいしいヌーヴォーの楽しみ方

さて、素晴らしいヌーヴォーを手に入れたなら、それを最大限に楽しむ方法を知っておく必要がある。

多くの人と同様、筆者も基本的に“酒の楽しみ方は人それぞれ”というのが基本スタンスなのだが、ワイン屋時代に営業をしながら「あぁ、そんな飲み方をしてもったいないなぁ」と思うことはしばしばあったので、おせっかいながら少しだけ述べさせていただきたいと思う。

●“飲み方”にこだわる
日本酒やビールと違い、ワインは基本的には“それだけを楽しむ”ためのものではない。もちろんヌーヴォーは軽やかな味わいなので、グラスになみなみと注いで喉を鳴らしながら飲んでも構わないのだが(年配の方ほどそれが多い)決して安いワインではないので、最大限に楽しむために少しだけ準備をしてもいいのではないかと思う。
基本的なところでは『マリアージュ』には少しこだわりたい。マリアージュなんてかっこつけていっても要は“酒の肴”のことで、ヌーヴォーなら塩気の強いチーズ(匂いが強ければなおよい)をはじめ味噌、醤油などの発酵食品、変わったところでは納豆などもよく合う。生魚は避けたいが、クリームソースや甲殻類のソースで味付けした白身魚は相性抜群だ。なんでも合うのがヌーヴォーのいいところ。下の画像にある春巻きとスモークチキン、ソーセージは筆者がヌーヴォーを飲むときの三種の神器だ。

それから、食器棚にある中で一番大きなグラスを使うのもポイント。おいしいボジョレ・ヌーヴォーには、発酵方法に由来するバナナや洋ナシのような香りがあり、普通のコップ・グラスではそれが感じられなくなってしまう。現地では750cc~1Lも入るような大きなグラスに、100㏄ぐらいずつ入れて飲むのだが、グラスが大きいほど空間に香りがこもり味がよく感じられるのだ。丸い形状をしていればなおよい。
●白・ロゼのヌーヴォー、そして“プリムール”も一緒に試してみる
ここの所徐々に増えてきているのが、ヌーヴォーの白ワイン

実は原産地統制呼称の関係上『ボジョレ・ヌーヴォーの白』は存在しないのだが、お隣のマコン・ヴィラージュ(マコン村)という産地では白ワインのヌーヴォーが作られている。こちらもフレッシュでとてもさわやかな味わい、もちろん生魚にもよく合う。

また、以外にもボジョレ・ヌーヴォーのロゼは存在する。こちらはマコン・ヴィラージュの白以上にレアな存在だが、話の種にもいいだろう。

ちなみに、マコンもそうだが、ボジョレ以外にもフランス全土の産地で“新酒”が作られているのはあまり知られていない。それらはヌーヴォーではなく『プリムール』と呼ばれているので注目されにくいが、各地のブドウ品種で作られているので様々な味の違いが楽しめる。

オススメは南の産地のプリムールで、ブドウの収穫が早いためにワインの醸造が早く終わり、日本へ輸入するときも飛行機で運んでくる必要がなくなるため、その分価格が安くなるのだ。

●国産のヌーヴォーを飲んでみる
国内ワイン、特に山梨ワインの質は近年目を見張るほどの向上を見せており、醸造家たちの情熱の高さも相まって素晴らしい味わいが楽しめる。勝沼醸造を始め、いくつかの蔵元は国外でも高い評価を受けるようになっており、国産ワインをバカにする人たちにこそ飲んでもらいたい一本になっている。
そんな山梨ワインの新酒の試飲会が、毎年東京と大阪、そして山梨で開催される。毎年ボジョレ・ヌーヴォーの解禁直前あたり(今年は11/3~11/11)に開催され、どの会場も素晴らしい盛り上がりを見せる。

これらのイベントは1000円でグラスを買えばあとはワイン飲み放題、という地上の楽園だ。筆者は毎年山梨会場に行き、ひいきにしている丸藤葡萄酒の、宮崎駿氏にそっくりの社長と話をするのを楽しみにしている。
国産のヌーヴォーの良い点は、ずばり色々な品種のものが飲めること。ヨーロッパ中のブドウから作られているほか、フランスではワイン醸造に使われないような巨峰、デラウェアといった品種のワインも味わえる。ほかにも独特の香り(人によっては毛皮の様な香りとも表現される)がするアジロンダックというブドウや、ブラック・クイーン甲斐ノワールといった日本で開発されたワイン用ブドウ、日本古来の野生ブドウであるヤマブドウなど枚挙にいとまがない。
筆者はもう6年以上も国産ワインを追いかけているが、毎年新しい品種に出会えるので飽きずに楽しんでいる。

フランスはもちろん、アメリカやオーストラリアなどの新世界ワインも国際的な評価に縛られて品種の固定化が進む中、日本のこの自由さは世界に誇れるものだ。いつか日本で、世界のワイン評論家が想像していなかったブドウ品種から、ロマネ・コンティやボルドー5大シャトーに引けを取らないような銘醸ワインが作られる日が来るかもしれない。

 

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アルコール離れに苦しむワイン業界の切り札としてゴリ押しが始まったボジョレ・ヌーヴォーブームだが、現在では「ボジョレ・ヌーヴォーは薄くてまずいだけのワイン」「あんなものは日本人しか飲まない」と必要以上にたたかれることもしばしばだ。

確かに質の悪い、筆洗いの色水のようなヌーヴォーも数多あるが、この10数年間のブームの間に良質なものもたくさん日本に入ってくるようになり、楽しみも増えていると思う。

何より「収穫を喜び、新酒を愛でる」感情はどの国でも共通のもの、これはいわば世界最大の試飲会イベントなのだ。普段はフルボディ派でも、あるいは日本酒やビール派のあなたも、来週末はぜひヌーヴォーワインを召し上がってみてはいかがだろうか。

 

図鑑系の出版社に勤めながらアウトドアの趣味にいそしんでいます。 今はトレッキングポールと登山靴をザックに括り付けてロードバイクで奥多摩の山を疾走し、トレランをしながらキノコ狩りをする日々です。 ほかにも素潜り、釣り、山菜狩り等一年を通じ野外で食べ物を採集し、美味しく食べたりお腹を壊したり、アレルギーですごい顔になったりしています。 完全自給自足という夢に向け、エンゲル係数を下げる努力を続けていきます。

ウェブサイト: http://www.outdoorfoodgathering.jp/

Twitter: tetsuto_w