【武道便所】トイレパラダイスvol.1~便所魂~

  by 千徒馬丁  Tags :  

突然だが私の性別は女である。
武道の心得、便所に見る心技体、頭を鍛え頭を柔らかくする武道便所の記事を書き続けて早8年、この間ずっと性別は変わらず女である。
よって、武道便所の画像撮影の際には男子便所の表示プレートまでは撮れても内部や個室を撮ることは魔が差さない限りほぼ不可能。
しかしそれを可能にする裏ワザが突如、降って湧いたのである。

【編集長、忠犬ハチ公になるってよ。】

「武道便所の記事は?まだ書かないの?」
「編集長アータそうおっしゃいますけどねぇ・・・記事を書くためにはハイカラな写真機でもって撮影した画像っつぅデータが要るんですよ、編集もしますしねぇ。こちとら撮影も編集もテキストもひとりでやってまんねん、どえらい人手不足ですねや」
「どんな画像があればいいの?」
この瞬間、編集長は忠犬ハチ公に変身した。
今日は書くか明日は書くかと私の尻を叩く編集長であることに変わりはないが、私の要求に忠実に応えるカメラ小僧となって今や二足の草鞋を履いている。
ハチと呼ぶとハチは犬じゃないか!と編集長がご立腹なさるので、人間味溢れるうっかり八兵衛だと説明しているが、呼んでしまえばだろうかハチだろうが一緒に聞こえるので問題はない。

恥じらいを捨てることが重要なのをうっかり忘れてしまうハチに対して、私は容赦がない。
「ピント合ってないから撮り直してきて。それとコレこっちからのアングルで。ほんでコレ、引きの画像も要る。んでコレ、コレ、コレ、コレ、全部ピントおーてへん」
引き返して画像を撮り直す、従順なハチ。
「撮り直したらその場で画像送ってきて。便所の中に居て欲しいねん、いちいち撮り直しに戻ってるとロスやしさ」
便利な世の中になったもんである。
ハイテクなスマホっつぅ電話機のテレビ電話機能を使い、ハチを遠隔操作して写真を撮る場所をグルリと見渡すことが出来る。
PCの前であったか~いコーヒーなんぞを飲みながら、アングルの右も左もわかっていないハチを操ってシャッターを切り、撮り直しを要求してはまたまたシャッターを切らせまくる。
「一回画像送って来て、チェックするから」
『画像送ったらすぐ確認して。絶対すぐだぞ、そしてすぐ指示をくれ』
「はいはいはい、すぐやから」
『送ったよ、早く』
急かす、ハチ。
人目がとっても気になるようだ。
「だからピント合ってないってば、また。早くココから立ち去りたいって画像が言ってる」
『動揺が出てましたか』
「出てますね。もうそろそろ気持ちの整理をしていただかないとハナシになりませんよ」
『今日、服が失敗なんだよね』

『ガラスにうっすらオレンジが映るんだよコレ、通常は立たない位置にオレンジが立ってアヤシイ動きしてるから目立つわ、アヤシイな』

ま、オッサンてたいがいアヤシイ動きしてるから誰も気にも留めていないとは思うが、便所カメラマンの心得を伝授する。
「コソコソするからアヤシイねん。私なんてもっと奇抜な恰好で堂々と男子便所の中に2、3歩は入ってるわ。出てきたオッサンが『すいません』て言うで。『こっちこそすいませんねぇ、今トイレの記事書いてて参考画像が要るねん~ごめんごめ~ん』て聞かれてもないけど自分から言う」
8年も続けてやっと堂々としてきたのでは決してない。
コソコソすると逆にアヤシイと気付いた瞬間にスムーズにシフトチェンジをしたので、かれこれ8年ド厚かましく堂々とやっているのだ。
便所にかける情熱で羞恥心を封じ込めるのに私は、さほどの時間をかけなかった女である。
「こういう風に撮る、ていう見本を画像付きでまとめといたから熟読しといてな」
『見たけど、注文が多すぎだろ。厳しいんだよ、条件が。』
「写真にはそれなりのクオリティを求めますのでね」

ハチは今日も便所撮影の旅に出る。
数を撮らないとちっともうまくならないから数を撮れとの私の命に従って。
だからハチは、日本一のトイレを目指して車を走らせた。

【インフォメーションのおばちゃんが『日本一』と言ったから、今日からココが日本一トイレ。】

全国の自治体、企業、団体378件から応募があり、28件が表彰された日本トイレ大賞は、優れたトイレ空間や、トイレに関する活動を表彰するために創設された賞。
全国の道の駅としては唯一の受賞であるため、おばちゃんが『日本一』と賞状を見せてくれたようだが、とくに『日本一』を決める賞というわけではないようだ。

『何を撮るんだっけ?外観・・・プレート・・・』
「プレートは、全部ね」
『キッズも?』
「キッズも。女子便所も。」
『えっっっ?それは、無理だろ。』
「なにも中に入れって言ってるわけちゃうし外側からプレート撮るだけやん」
『女子便所の前にオッサンが立ってるのはおかしいだろ』
「おかしいことなどない、おかしいと思う自分がいるだけ。」
『望遠にするわ、近づくのは無理』
「無理なことなどない、無理だと思う自分がいるだけ。」
『さっきから、なんだそれ』
「近所のお寺の掲示板に書いてたで。怖いことなどない怖いと思う自分がいるだけ、て。若干のアレンジをキかせてみました」
『うん、いらない』
怖いだけに限らず何にでもアレンジ出来る便利な御言葉である。
いらないものなどない、いらないと思う自分がいるだけ。

デザイナーがデザインしたらしいトイレへと誘うプレートは、デザイナーの甘い匂いが漂う蜂の巣構造。

トイレを「地域のもてなし」と位置付けているだけあり、トイレにしておくにはもったいない空間に仕上がっている。

ちょっとガッツのあるひとなら、このトイレで飯が三杯は食えそうなほどである。

かなり機敏なひとなら、このトイレに住めそうな気さえする。

円柱型のキッズトイレのドア上の空間は、どうも覗きたくなる衝動に駆られるようで、通りすがりにおじいさんが覗き込んでいたが大丈夫だろうか。

もてなし度が高いことが仇となっている気がしてならない。

蜂の巣構造シルエットのみのオシャレな表示プレートだけでは認識出来ないかもしれないことも考慮し、文字での表示もちゃんとある。

表示のおもてなし度も高い。

トキも安心のおもてなし度、禁煙宣言施設。

清掃用具もオシャレに表示。

オシャレとPOPに

渋さもプラス。

古き良き日本昔話を思い出す懐かしさ。
これでもかと表示を散りばめるのが、日本一トイレ。

『あとは便器だから中に入るし、電話は切るよ』
「ちょっと待って。管理のトコに行って『ちょっと今~トイレの記事を書いてるんですけど~女子便所を撮らせてもらうわけにはいきませんかね~』て言ってみるだけ言ってみようか」
『おいっ』
「いけ、ハチ。」
滝行、それは気合いと根性を入れて勇気を振り絞らなければ挑むことができない自身の弱気な心を打ち負かす精神修行。
清めよハチ、そして打たれよ。

【ハチ、女子便所に入るってよ。】

混んでいるインフォメーションが暇になるのを遠巻きに見て、今だ!というタイミングを逃さず滝行に勤しむハチ。
手が空いたおばちゃんに対して「すいません・・・」と話しかける、なかなかの滑り出し。
「あのぅ・・・今トイレの記事を書いてるんですけど、女子トイレの中、写真撮らせてもらうわけにはいかないですかね」
「いいですけど責任者、呼んできましょうか?」
「いや、結構です。」
責任者なんか呼ばれた日にゃぁとビクビクが止まらないハチに、先に女子便所の中へと入って行くおばちゃんが「ちょっと待ってて」と言う。
その待っている隙に、キッズスペース→待合→女子便所という配置になっている空間を急いで撮影するハチは動揺を隠せない。
おばちゃんが中の女性に「写真撮りたいって男性がいるんですけど」と説明すると、用を足していた女性たちは快諾してくれたようで、じきに「いいよ~どうぞ~」と呼ばれる。

おばちゃん付き添いのもとハチは禁断の女子便所の中へ。
緊張のあまりココと定めた3枚を撮って終わりと勝手に決めた滝行中、ハチは懸命におばちゃんとの会話を試みる、上の空で。

「あ~キレイですね~」
「そうですね。デザイナーさんがデザインしたんですよ」
「なんか男子トイレよりキレイな感じしますね~」

私が窓と照明と洗面の写真という条件を出していたので、それを思い出して撮るハチ。
カシャ・カシャ
「ありがとうございましたー」
3枚と決めて撮ったはずなのに何故か2枚に減らしたハチ、現場に弱いタイプである。

あれだけ映り込みには最新の注意を払えと事前に念を押したのに、付き添いのおばちゃんが鏡にバッチリ映り込んでいるのに気付きもしない。

羞恥心を封じ込めるのにかなりの時間をおかけになるおつもりか、便所魂の薄さが際立つ。

女子便所から出たらおばちゃんから珍しいトイレがまだまだあるとの情報提供を受け、意気揚々とその報告をするハチ。
『おばちゃんにまだ珍しいトイレがあるて言われて、教えてくださいって言ったらおもむろにパンフレット2枚持ってきてさ。大人用と子供用のトイレがあって珍しいトイレになってるとか、朝市が行われる場所のトイレとか内容説明してくれた。だから、近いですか?道を教えてください。て、地図広げて場所教えてもらったから、今から向かう』
いつも私の尻を叩くハチ、おばちゃんに尻を叩かれる。
『それでおばちゃんにさ、よかったらなんて記事か教えてくださいて言われて。個人的なブログなんでて答えたら今度はなんてブログなんですか?て』
「正直に言ったらええのに。別にコソコソ書いてる記事ちゃうねんから。ブログも何もかも教えてええで」
『教えていいんか迷ったんだけど、おばちゃんにブログ名まで聞かれてあっさり陥落。あの記事書いてるのは私ではないんだけど武道便所で検索したら出てきます』
武道便所ですか?武道ってこの字ですか?」
はい、その字です。ヤバいよね、あのおばちゃん検索するかな~真面目な記事じゃないのバレるかな』
失敬だな。
確かに真面目な記事ではないが、バレてヤバいような記事に仕上げているつもりはないのに。
「バレるとはなにごとや、人聞きの悪い言い方しな。」
『じゃ、教えてもらった2箇所も行くよ』

日本一トイレでおばちゃんにご紹介いただいた姉妹トイレ兄弟トイレも合わせて計3つ。
この3箇所のトイレを撮るために8回、帰りかけてまた戻らされた2回を含めると都合10回、これでもかと撮りに撮ったり画像620枚超。
軽い気持ちで撮影の練習へと向かうこの時のハチに、懐かしさがこみ上げるスパルタ教育が待っていると予想することは到底出来ようはずはなく、この先3日間も休日を潰して朝から暗くなるまで便所にこもらされる羽目になることなど知る由もない。

便所魂は厳しさに耐え忍び、自らの手で磨いてこそ鈍く光るのである。
女子便所に緊張してアングルも覚束ず枚数もそこそこに退散するような怠けた魂を閻魔様はお赦しにはならない、そういうことだ。
地獄修行の如き画像撮影によって記事が出来上がっていく様は【武道便所】トイレパラダイスvol.2以降に続く。

※全画像:筆者および助手ハチ撮影

サルコイドーシス(以下:サル)を患うこと早5年目。そろそろ人間になっているかと思いきや直近の経過観察でもまだサル。しつこいぞ、サル。いつまでだ、サル。 プロフィールのイラストは、入院中の暇つぶしに院内をウロチョロしていた時に知り合った職業が元美少女エロ漫画家の山田課長が、サルの病名普及のためペペペーと描いてくれました。 そんなわけでね、今日はよかったら名前だけでもおぼえて帰ってくださいね、特定疾患『サルコイドーシス』略してサル、難病です☆

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