NHKは本当に裁判で勝ったのか?

  by アルナオ  Tags :  

12月6日、最高裁で受信契約締結承諾等請求事件の判決が言い渡された。
大筋でNHKの主張が認められたが、NHKが勝ったようには見えない。

NHKの存在価値より国会の意思が優先される

判決では、国会の「立法裁量が認められてしかるべき」で、放送法は「合理的なもの」であり、「合理性が今日までに失われたとする事情も見いだせない」から「目的を達成するのに必要かつ合理的な範囲内」ゆえに合憲と判断されている。

つまり、NHKが質の良い報道をしているからその対価として受信料を払うのでもなく、報道の自由を担保する目的があったとしても立法裁量を離れてまで徴収できるわけでもないことになる。

さらに、補足意見でも、現在の法律には不備があると言及していて、法改正は必至である。NHKに対する厳しい意見が多い中で法改正をすれば、NHKに対して厳しい法律になると予想される。やぶへびになってしまったと評価しなければならない。

NHKのネット進出が厳しくなる判決

判決では立法目的の正当性についても判断されている。

放送法は、国民の知る権利を実質的に充足する目的で制定されたので、正当性があるのだが、立法の経緯について触れられており、今後のNHKにとって厳しい理論構成になった。

放送法の施行前、受信設備は「設置に主務大臣の許可を要する」もので罰則まであった。「許可基準は法定されておらず」ということで、テレビが欲しいから許可申請をしたものの、何年も放置されて挙句の果てに却下されて、腹いせに設置したら捕まったということになってしまう。

許可制を緩和するなら届出制にするべきだろうが、行政が行うにはコストがかかりすぎる。
放送法64条1項に契約しなければならないと規定することで、届出と同じような効果を持たせれば行政コストを削減できる。

「放送法は,受信料の支払義務を,受信設備を設置することのみによって発生させたり,原告から受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするのではなく,受信契約の締結,すなわち原告と受信設備設置者との間の合意によって発生させることとしたものであることは明らか」と示されたのは、契約が届出に近いものであることを表している。

この論理構成は、NHKが目指すネット課金を大きく後退させるものだ。
ネットはネット業者によって管理運営されている。ネット業者と契約することで、電波利用の届出をしているのだから、NHKと契約して二重に電波利用の届出をするなら、手続きを簡素化するために契約を強制している放送法64条1項と矛盾してしまう。ワンセグ課金やネット課金を支持する判決は出しにくくなったのではないか。

競馬が賭博に当たるかどうかと同じように、NHKの存在もグレーゾーンと感じるが、少なくともNHKは立法裁量の中だけで生かされている存在ということが明らかになった。

しかし、NHKが必要かどうかの選挙があったとしても、判断するための材料が揃ってないと感じる。

競馬ファンと競馬嫌いがせめぎあうように、NHKファンとNHK嫌いの人が放送内容について国会で激論している様子を放送してくれたら面白そうなのに。

参考資料:平成26(オ)1130  受信契約締結承諾等請求事件 平成29年12月6日 最高裁判所大法廷 判決
画像はNHKの公式ホームページ

何でもかんでも競馬に例えてしまうのが悪い癖なので、競馬は門外漢という皆様には読みにくいかもしれません。逆に競馬好きの皆様は法律経済のあたりがわかりやすくなるかも?