宿泊施設になった京町屋に住んで文豪気分を味わう!「町家レジデンスイン」宿泊レポート

  by 古川 智規  Tags :  

京町屋といえば風情漂う京都の街並みとしてそれ自体が観光資源であるともいえる。そんな京町屋に泊まることができるという宿泊施設「町家レジデンスイン」を訪ねて記者は京都に出向いた。

京町屋の定義はそもそも昔はそのような言葉はなく、難しい面はあるが間口が狭くうなぎの寝床のような細長い古い住宅をそのように呼ぶようだ。京都にはそのような住宅が多くあり、見つけること自体は難しくない。ただし、あくまでも民家であり住宅であるので誰かしら住んでいるか、店舗に改装しているかというケースが多い。そこに泊まるということ自体が無理難題であったといえる。
それは、旅館にするには帳場(いわゆるフロント)その他の施設や人員が必要で、そもそも狭い宅地にそのようなものを設置するスペースはない。
そこで、1棟を丸ごと提供して誰とも共有しない宿泊施設とした。もちろん宿の従業員はいないし他の宿泊客もいない。いわば貸切専用の宿泊施設といえる。

鴨川と高瀬川の間に広がる下京区材木町にある「花篝」(はなかがり)と名付けられた町屋が今日のお宿だ。写真の左半分が記者が宿泊する町屋で、右側は別の宿泊施設となる。内部ではつながっていないので、つくりは同じでも全く別の宿泊施設だ。なお、防音壁を備えてあるので、隣家の声等は聞こえない。記者が宿泊した時には隣に女性グループが泊まっていたというのだが、ほとんどわからなかった。

見た目は古びた京町屋だが、ところどころに改装して近代化を施したところがあるのも、特徴だ。

玄関とびらは引き戸で、それ自体がオートロックになっている。
暗証番号式のロックで、京都駅近くの系列旅館で、またはスタッフがこの場所に来てチェックイン手続きを行う。チェックイン手続きは施設の説明と暗証番号の通知で、当然ながら物理的なカギはない。チェックアウトはそのまま退室すれば施錠されるので、出て行って構わない。
入った場所が土間(タイル張りのダイニングキッチンスペース)になっていて、洋式のテーブルといすを備える。

洗濯乾燥機、電子レンジ、IHクッキングヒーター、液晶テレビ、食器類がそろい自由に使用することができる。この場所にはBluetooth対応の天井埋め込みスピーカーが装備されており、ペアリングを行うと自分のスマホの音楽を流すことができる。BGMは自分のお気に入りの音楽でくつろぎたい。

土間をあがるとそこからは日本の家屋同様に土足厳禁だ。使い捨てのスリッパや、マイクロUSB対応の充電器もあるのでスマホの充電もばっちりだ。右が3畳の和室で書斎風の男性好み。
左側は近代的でオシャレなトイレとバスルーム。シャワールームではなくバスルームなのが日本人にはうれしい。詳細は後述する。

3畳の和室はかなり閉鎖的な空間で、閉所恐怖症の方にはきついかもしれないが、自分だけの書斎といった感じで誰にも邪魔されずゆっくりとくつろぐことができる。
なお、この物件は最大5名が宿泊可能で、この和室には1名が就寝する。

トイレとバスルームは、古さを全く感じさせない刷新された近代的なもので、洗面所もオシャレだ。

アメニティキットは男女兼用で、かわいらしいポーチに入っている。京都で購入した和菓子などをを入れて持ち歩くと絵になりそうなものだ。

そして、完全に自動化されたバスルームには底冷えする京都でも快適に入浴できるように浴室暖房が備えられている。タイマー付きで、お風呂の準備ができるまでの間に浴室全体が温まっている。

そして、浴室は自動お湯張り機能付きで設定温度でお湯を張ってくれる。カランでお湯の温度を調節していっぱいになったかどうか見に行かなくても、ダイニングスペースでアラームが鳴って知らせてくれる。
また、グループ旅行で使用する際に便利なインターホン付きで、ダイニングとの連絡がお風呂に居ながらにして取れるのはありがたい。

さて、2階に上がってみるとダイニングの上、つまり玄関の上は2人が就寝できる和室。
低い敷居に障子付きの窓というこのつくりは昭和初期まではさほど珍しくなかったが、今では文学小説の中だけのものになってしまったきらいがある。

記者のインスピレーションはずばり「文豪」。
時代は少し違うが、こういった一間に明治の文豪が住み込み、万年筆を走らせていたというイメージが記者の頭に浮かんだ。
高瀬川のせせらぎを眺めながらの文筆ははかどったに違いない。

こういう空間には日本茶と和菓子が合う。
別にチーズケーキでもシュークリームでも構わないのだが、記者は備え付けのお茶とコンビニで購入したきんつばでひと時を過ごした。まさに文豪の気分だ。残念ながら原稿用紙も万年筆もないが、それは文明の利器であるパソコンで代替する。

この和室の反対側が洋室の寝室。ツインベッドが備わり、ここに2名が就寝できる。全室合わせてこれで5名分となる。
と、そこに忍者屋敷のような隠しとびらというにはあまりにも目立ちすぎる引き戸を発見。図面にもない上り階段がさらに上へと続く。これは探検せねばならない。

急な階段を上りきると、そこは屋上だった。
季節的に少し寒いが、夏であればここでお風呂上がりの夕涼みが楽しめる。家屋の作りから下からは見えないので、ここでビールでも飲みながら談笑すれば、京の風情を満喫することができるだろう。

担当者に意図を聞いてみた。
インタビューに応じてくれたのは、「町家レジデンスイン」を運営するエイジェーインターブリッジ営業部長の三浦昌樹さん。宅建の資格を持つ建物のプロだ。

--なぜ京町屋を宿泊施設にしようとしたのですか?

「法令上はホテルや旅館ではなく、簡易宿所というカテゴリーになりますが、設備そのものは一流のものですので簡素に作ってあるということではありません。もともとは地方創生と観光業を融合し、京都で問題になっている京町屋の空き家対策という目的もあり、7年前にスタートしました」

--古いものなので空き家が多いということですか?

「それもありますが、こういった古民家を再生するにあたって、何でも良いというわけではなく現行建築基準法以前である昭和25年以前の建物を主に改修して再生しています。若い方がどんどん外に出てしまい、老夫婦だけが残りそれも税負担や修繕維持が難しくなって空き家になってしまったというところがおよそ1割もあったのです。だからといって取り壊してしまうには惜しい物件が多く、持ち主もできれば存続させてほしいと願う方が多いのも事実です。そこで、家の作りはそのままに『暮らすように泊まる』体験型宿泊を提供するに至りました」

--確かに近代化したとはいえ本物の日本建築ですからね

「そうなんです。今お泊りの花篝は5名定員ですが、複数のファミリーで利用できる大きなものもありますし、女子会などのグループ、リタイヤされた夫婦の方がゆっくりと自分の家のようにここを拠点に京都に限らず近隣都市への観光にも利用していただきたいと思っています。そのために連泊されても快適にお泊りいただけるように自炊施設や洗濯機も備えております。ミドル世代はもちろんですが、若い方にも自宅のように快適に過ごしていただければと思っています」

記者が実際に宿泊して思ったのは、都市部で生まれ育った世代は生まれたときからマンションで2階建ての家には泊まったことも行ったこともないという方が多いのではないかということだ。記者は地方出身なので2階建て1軒屋に住んだことがあるが、マンションで育った世代がいくら高級旅館に宿泊したところで2階建てを占有できるというのは別荘くらいしかないのではないだろうか。その点において、ファミリーで宿泊すれば子供たちも大喜びなのではないのだろうかと考えられる。
なお、宿泊料金は1棟当たりなので、大人数であればあるほど一人当たりの料金は安くなる。
さまざまな使い方ができる「町家レジデンスイン」で京都の古くて中身は新しい古民家に住む体験をしてみてはいかがだろうか。

※写真はすべて記者撮影

乗り物大好き。好奇心旺盛。いいことも悪いこともあるさ。どうせなら知らないことを知って、違う価値観を覗いて、上も下も右も左もそれぞれの立ち位置で一緒に見聞を広げましょう。

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