閉会中審査で、青山繁晴議員がぶちあげた奇妙な話

  by mexicona  Tags :  

加計学園の獣医学部新設計画をめぐって、2017年7月10日に衆参両院で閉会中審査が行われました。その中で自民党の青山繁晴参院議員が質問に立ったのですが、獣医師養成の問題として奇妙な話を取り上げました。

青山議員は閉会中審査でこのような質問を行っています。
以下は全て書き取りです。

これまでの獣医師養成には別の問題もあります。現在930名の定員でありますけれども、1200名まで水増し入学が行われております。これで需要が均衡していると、もしも文科省が判断しているとすると、この点からもおかしいのではないのでしょうか?これは23%もの水増し入学が横行しているという事でありますから、あー実は現場の方に随分尋ねていきました。
そうしますと例えば教室に入りきれない学生が廊下に溢れて、授業を一種見学している、のぞき込んでいると言う実態もある。一番大切な実習も実は背後から覗くだけという状態が、これ大学によって変わりますけれどもおきているところが、かなりあると。

 
 
果たして、この水増し入学の話は本当なのでしょうか?
実際の獣医学部の定員と入学者数を調べて一覧にしてみました。
※各大学が公開している集計年度に少しばらつきがあります。その点にはご注意ください。

 
北海道大学の場合は入学時に専攻を決めない総合入学の定員が5名枠あり、また東大の農学部獣医学専修の定員数は30名ですが、三年からの進学振分けで決定するものとなっています。
表の合計の895に、北海道大学の5名に東大の30名を足すと、930名という現在の獣医学部の定員数が現れます。

しかし内部進学の話を含めて考えて見ても、どうにも青山議員の言うような「1200名まで水増し入学が行われております」という具体的な数値は出てきません
毎年だいたい似たような数値で推移しているようですので、入学定員895名枠に1,008名程度、15大学の合計(東大除く)で入学時の定員オーバーが113名程度というのが実際だとすると、当然この中にも中退する人や獣医師にならない道を選ぶ人もいるわけですから獣医学部全体で見ると随分大人しい話になってきます。

また、官邸のホームページに置かれている『獣医学関係大学設置状況(平成26年度)』というPDF資料を見てみますと、
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_s/140805siryou01.pdf

「獣医系大学の定員についての検討」において、獣医師の供給を減少させる要因の対策として「各獣医系大学の定員管理の厳格化」というのを挙げられており、そこに「930人の定員に対して約1,050人が在籍する状況の改善」といものが示されています。
この資料を踏まえて考えると、今回の集計の1,008名に東大の進学振り分けの30名と北大の総合入試の5名を加えると1,043名となり、問題にされたものと似たような数字になりますから、現在も改善すべき状況が続いていると言えるでしょう。しかしこうした資料にも、やはり青山議員の言う「1200名」に近い数字はみつかりません。

もしかすると青山議員の言う「1200名」というのは、獣医学部内にある獣医保健看護学科などを、取り違えて含めてしまっているものかも知れません。獣医看護学科に類するものは獣医学部の中にあったとしても動物保健看護を学ぶ四年制の学科で、獣医師を育成するものではありません。当然、青山議員が言う930名の獣医学部の定員の議論には含まれませんから、獣医学部の930名の定員に対して持ち出すべき数字ではありません。
 
 
もちろん「1200名」と言う数字に誤りがあって実際には1,050名程度だったとしても、青山議員が関係者科から聞き取りを行ったという「教室から人が溢れて十分な教育が出来ていない」という現状の指摘は、問題にすべきことです。
そこで今回調べた集計をもう一度見てみます。国公立大学のトータルでは入学定員335(東大、北大の総合含まず)に対して入学者数は354ですから、約5.7%の定員オーバーとなります。一方で私立の大学の場合は560人の定員に対して入学者数は約16.8%の定員オーバーと、私立大学は平均して国公立の三倍近い定員オーバーがあるというのが見えてきます。
今回の青山議員の水増し入学の発言は獣医学部全体の問題としてあるように受け取った人も多いようですが、実態を見ると私立大学が顕著に抱えている問題だと言えるでしょう。ちなみに青山議員に対する前川参考人の答弁として、私立の獣医学部における定員超過は問題として認識しているという回答をしています。
 
青山議員が指摘しているような定員水増しによって、「教室にも入れない」「実習に参加できない」といった教育の質の低下が発生しているとすると、まず私学の獣医学部の状況改善が急務であると指摘できます。特に私立大学の場合は入学者数は学校経営という問題と密接に関係してくるわけですが、この私学の獣医学部が抱えている定員オーバーの問題は、当然私学である加計学園の実際の入学状況も注視して見ていかなくてはならないという話にも繋がっていくことになるでしょう。
 
 
 
さて。青山議員はこの閉会中審査で、上記に主張に続けて以下の発言をしています。

文科省は現在、大学の定員超過の是正に取り組んでいるとも聞きました。ただ、もし獣医学部の水増しが正されれば、年間270名。なんと、ほぼ1/4もの新しい世代の獣医師が減ることになります。これは獣医師の教育確保、現状の学校では十分でない証拠でもあり、獣医師養成の学校が足りないという証左ではないでしょうか。前川参考人。この点に関してご見解はいかかでしょうか?

青山議員の主張は、実に奇妙な論理であることは直ぐに判ると思います。まず獣医学部に入学しさえすれば獣医師になれるというものではありません。国家試験を受けて合格しなくてはなりません。実際に農水省のホームページから第68回 獣医師国家試験(平成28年度)の結果がどのようなものか見てみましょう。

第68回はトータルの合格率でで77.2%の合格率となっています。
特に注目して貰いたいのが新卒の合格者数です。受験者数が1,028人に対して合格者数が899人です。

獣医学部の定員が930名ですから、定員の人数だけが受験したとして現役合格率の87.5%を適用すると合格者数は814人となります。たとえ定員の一定数が受験しなかったとしても青山議員の主張するような「ほぼ1/4もの新しい世代の獣医師が減る」ということは、まずありえません。

また仮に青山議員が言うように年間270名の水増し入学があったとすれば、獣医学部に入学したのにも関わらず医師国家試験すら受けない人が毎年200名近くもいるという事になりますから、獣医師の養成学校は既に飽和しているという結論になるはずです。もちろんこの「年間270名」というのは、青山議員が取り違えている可能性が大きいです。

今回取り上げたのは、閉会中審査における青山議員の一区切りの発言でしかありませんが、この部分の発言に関してだけ考えてみても、
・そもそもの指摘の事実がおかしい
・基本的な情報を踏まえていない
・論理展開がおかしい
といった複合的な問題が浮かび上がってきます。
もしかすると「水増し入学分を加計学園の新設に回すという形は綺麗におさまる」「そのためには加計学園の定員よりも多い水増し入学の状況があると好都合だ」という様なストリーにはまり込んでしまった結果だったのかも知れませんが、青山議員らしからぬ発言だったと思います。

昨今、国会議員の質問能力の低下がよく指摘されていますが、厳しい言い方をすれば国会の時間を使って事実と異なる事を声高らかに主張し、そこからさらに理論的におかしな話を展開するのも非常に国益を損ねる行為だと言うことは確かでしょう。
 
ただ、今回取り上げた定員だけではなくて入学者数にも注目するという青山議員の論点は非常に大切です。7月8日のNHKの報道によると、加計学園は獣医学部新設に伴って審議会から教育の質に関わるとして指摘された定員数を申請内容より20人減らして140人に変更しましたそうですが、今回の閉会中審査の青山議員発言から加計学園の実際の入学者数にも注目が集まることになりそうです。

今後の青山議員の活躍に期待したいところです。
 
 
 

トップ画像: PAKUTASO/ぱくたそ フリー写真素材 より加工
中画像: 自主制作資料 
下画像: 自主制作資料

消費生活アドバイザー めきし粉書房代表。 電子書籍とか出してます。 オカルトから文芸、その他。 最近のメインテーマは「プロパガンダ」とか「マインドコントロール」 貧乏オーディオ愛好家。

ウェブサイト: http://mexiconasyobou.blogspot.jp/   https://note.mu/mexicona

Twitter: mexicona