関西のディープゾーン『遊郭・松島新地』に、愛する妻と1歳児、新生児と住んでみた~第2回~

  by 丸野裕行  Tags :  

前回、唾だらけの路上にポイ捨てしてあった吸い殻に火をつけ、うまそうにシケモクするババアをみてカルチャーショックを受けたフリーライター・丸野裕行であったが、大阪下町パラレルワールドはまだまだ開かれたばかり。常識破りのナニワミラクル処である松島新地は、さらに加速度を増して、丸野一家に襲いかかる。さて、今回は何があったのだろうか。

週末の遊郭は人が轢かれまくる

妻は気がついた。引っ越したてで、冷蔵庫に何も入っていなかったことに。そこで、散歩がてら町内へショッピングへむかう。

途中で、“ようこそ松島新地へ”のアーチ状の看板に混じって、“薬物をなくそう”“麻薬撲滅”という標識のようにお金をかけたと思われるしっかりと据え付けられた標語がみうけられた。ちょっと息をのんだが……妻が不安がるといけないので、私の心にとどめておいた。それにやけに尋ね人じみた怖いステッカーが張りめぐらしてある。ここって本当に人が住んでもいいのか? 悪質な業者も多いと聞いている不動産屋はわかって勧めてきたのだろうか?

松島新地には、魅力的なスーパーが数件ある。その中で遊郭に最も近いのが、業務マーケットという場所だ。段ボール売りの新鮮野菜から拙い技術で下ろされた鮮魚、やけにエイジングの進んだお肉、1キロも入っている赤ウインナー、半額でいつも売られているちくわなどの練り物、やけに安い米など魅力の商品群が揃っているのが、ここである。

怪しい品々を物色する怪しいナニワマダムたちに混じって、子供たちはお菓子を握りしめ、路上生活者っぽさ満開のオヤヂたちが焼酎大五郎4リットルを買い求め、どう見積もっても近所のラブホへのデリバリーの待ち合わせをしている年増女がオロナミンCを購入、遊郭からお使いにやってきたやり手ババアは女たちの3時のスイーツをかごに入れる。そこに私たち、赤ん坊連れ。店内は、あらゆる人種が押し合いへし合いし、カオスと化している。

レジに並び、順番を待っていると、店員と客の小競り合いが突然はじまった。

「酒売ってくれよ~!」
と絶叫しているのは、でかい図体の白髪まじりのごま塩頭の男。40がらみである。

「お母さんから止められてるの!あんたには売ったらアカンて!」
レジに立つパートのおばちゃんがなんとかなだめようとする。

「そんなん、そんなんなぁ、おばはんが言うてるだけやん、ん、んん」

下唇を噛みしめ、だだっ子のように食い下がるごま塩。お母さんとふたりっきりでの同居とみた。

「あんた、週末やからまた遊郭の周りで車に轢かれるやろ、酔うて。お母さん心配やって言うてたよ。今日も車多いさかい。ここら事故多いんやから」

なんや、どういうことや。えっ? そんなに車が多くなるの? 轢かれる? 事故多発地帯? パートのおばちゃんの言葉ひとつに108つの疑問が噴出する私たち夫婦。同じく並んでいた飲食業と思われるおじさんが話しかけてきた。

「あんた、新地ん中住んではんの? 金曜日の晩と土曜日、祝日の前の日は気ぃつけや。女買いにくる車が道は逆走するわ。猛スピードで走るわ、子供さんなんか連れてたら危ないさかい。よく車に轢かれるんよ」

えっ? そうなの? 週末はご近所さんが『マッドマックスサンダードーム』状態になるっていうこと?

目をぎらつかせた男たちが輸入車や国産のイカつい車に乗って、女たちを買いにくるとなると、その場で喧嘩だってはじまるという。まぁ、女たちに自分の種を残す行為を今からやるとなれば、みんな命がけだ。なんかとんでもないとこだな……、そんな気持ちが希望を踏み台にして一等賞を取る気配。

九条近辺って、日本のLAなんかい!

ごく当たり前の引っ越しなのだが……なんだかこの地を知れば知るほど、この漂う香ばしい空気感といい、とんでないパンドラの箱を開けたような気がしてくる。

買い物を終え、帰宅する途中に電話が鳴った。大阪在住のお得意様からの着信。

「引っ越してきたんやってなぁ~」

「はぁ、そうなんですよ。今はもう大阪府民です」

「どこらへんよ」

「ああ、地下鉄九条駅の近くですね。松島新地の近くですけど」

「ええっ! コワ! オレ、そこにある業務マーケットの前でたばこ買おうと思ったら、後ろから刺されかけたことあんで! 小銭狙うのにも平気で刃物で刺してくるきよるからな、そこらのやつは。あとは、丸ちゃん、奥さん若かったなぁ? 奥さんは23時以降はうろうろさせないほうがええわ。ここの大通り沿いでよく、金がなくて遊郭で女買えへん連中が歩いてる女をさらいおるさかいに。海が近いから、そっち連れて行って襲いおるんや。またコワいところに引っ越してきたんやね~」

は、はぁ? ここは日本のロサンゼルスですか!!! どういうことなんや!!! 俺は、妻と子のために復讐するためにチャールズブロンソンになるの?! なんちゅうところや!!

私と妻はその話を聞き、黙ったまま、買ってきた食材を冷蔵庫につめる作業に没頭した。その週末、窓から外を見れば、車がぶつかる音、怒号、松島遊郭は、給料日後ということもあって関西中から集まってきた性欲を満たそうとする男たちでごった返していた。

そのとき、自宅マンションのインターフォンが……。カメラで確認すると、オートロックのドア前に、川藤幸三似のパーカー姿の男がひとり。だ、誰や、こんな22時過ぎに……。

「は、はい」

「あ、あ……、ワシやけど、な、ちょっとトイレ貸してくれへんやろうか。遊びにきたんやけど、なぁ、ええ女まだみつからんのよな。なぁ、トイレ。開けてくれよ」

ガチャガチャと鍵のかかったドアを引く川藤。コ、コワ! なんじゃここは! 無法地帯やないか! ちなみに松島新地の中へは、ここらを取り仕切る団体との協定でもあるのか、警察も滅多に入ってこないそうだ。

丸野裕行

丸野裕行(まるのひろゆき) 1976年11月9日京都生まれ。 小説家、脚本家、フリーライター、映画プロデューサー、株式会社オトコノアジト代表取締役。作家として様々な書籍や雑誌に寄稿。発禁処分の著書『木屋町DARUMA』を遠藤憲一主演で映画化。『初めての不動産投資マガジン』、『ママビズ‐mamabiz‐』などポータルサイトの編集長、俳優養成スクール講師、タレントとしてテレビ・ラジオ・トークイベントなど活動。地元京都のコラム掲載誌『京都夜本』配布中! 次回作に「純喫茶関東刑務所前」、「童貞保護区域指定01号」、「屠殺場、地獄絵図ヲ描ク。」がある。

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