昭和レトロバイト探訪「大阪なにわ・ファミコン真剣師」

今の若者は知るわけもない歌の一節でしょうが、「吹けば飛ぶよな将棋の駒に~♪」という歌がありました。
そんな風に歌われた”将棋文化”の世界が、大阪・浪速(なにわ)にはあります。

今でも、通天閣下の新世界界隈に行けば、阪田三吉をモデルにした映画『王将』そのままの風情が残っています。

実際、この新世界界隈では、将棋のメッカとして、ジャンジャン横丁にある将棋クラブには、朝から将棋を指す人で賑わっています。

このように庶民の身近な娯楽として、深く浸透している将棋ですが、ゲームそのものが、もともと賭け事であったことから、自ずと金品を賭けての真剣勝負が行なわれるようになり、その収入を生業とする「真剣師」という職業があったのです。

この「真剣師」ですが、昔になりますが、NHKの朝の連続ドラマ「ふたりっ子」の中に登場する佐伯銀蔵こと銀ジイで、いっきに知名度が上がったようです。

この銀ジイは、対戦相手と家屋敷を抵当に勝負をする「真剣師」の壮絶な生き様を見せつけてくれていましたが、彼にも実在のモデルがいます。

しかし、現在では、賭け将棋が法律で禁じられ、取り締まりが厳しくなったこともあり、将棋のプロはほとんどが協会に加盟しているので、裏の世界のプロともいえる真剣師はほとんどいなくなったと言われております。

そのため、一度の将棋の勝負で、家屋敷まで取られるというドラマチックな展開はなくなりましたが、それでも大阪の路上には、将棋盤を並べて客が勝負を挑んでくるのを待つ、「プチ真剣師」とも呼ぶべきオッチャンが、そこかしこにいます。

そうしたギャンブル勝負の文化が根底にあったからでしょうか、この将棋盤を他のゲームに置き換えた「変り種真剣師」の姿もごくたまに見かけたことがあります。

たとえば、あのピョンピョンゲームこと、「ダイヤモンドゲーム」の勝負に金銭を賭ける真剣師。

結局、勝負の白黒が決まるゲームで、つまり、引き分けなどの曖昧な判定がなく、客観的にも明らかに勝ち負けが判明する条件さえ整えば、どんなゲームでの「真剣勝負」の対象になり得るわけですな。

しかし、この「真剣勝負」の世界ですが、「真剣師」に挑んでくる客もそれなりに腕に覚えのある連中ばかりですから、彼らに勝って、生計を立てるのは並大抵のことではありません。

そこで、ある男が将棋よりも自信のある、家庭用ゲーム機の対戦プレイでの真剣勝負を思いつきました。

いわば、「ファミコン真剣師」というわけですが、これは路上にテレビを置いて、通りすがりの客とピコピコ勝負をすることで「真剣師」として食べて行こうという、ビジネスモデルです。

晴天に恵まれたある日、試しに初めてみると、その物珍しさと華やかなBGMや効果音により、たちまち、黒山の人だかりが出来ました。

しかし、いざ、勝負を挑まれてみると、自分よりもはるかに強い参戦客が大勢いて、金を稼ぐどころか、持ち出しばかりになってしまったそうです。

それで、慌てて、午前中で店を畳み、出直すことにしました。

次に彼が始めたのは、新聞広告で「ゲームの達人求む」の募集を掛け、アルバイトを雇うことでした。

この広告に釣られて、私を含めて、かなりの数のゲーム好きの大学生が集まりました。

私たちは、いわゆるゲーム世代で、暇に飽かして一日中、ゲーム三昧の毎日を送っていたこともあり、それなりの凄腕の猛者揃いなのです。

アルバイトの面接は、バイト希望者同士を競わせる実力判定で、その結果、特に優秀だった5人を選びました。(私も運良く、勝ち残りました。)

早速、次の日から私たちは、14インチのテレビとファミコン、それに発電機を持たせて、「ファミコン真剣師」として、天王寺動物園周辺の路上に散らばるように命じられました。

ところが、これがまた、物珍しさも手伝って、大反響だったのです。

日頃、家ではファミコンなどをしないサラリーマンが、冷やかし半分に勝負を挑んできたりして、そこそこ、小銭を稼ぐことが出来ました。

その結果、当初はバイト代を支払っても、十分、儲けが出るほどの利益が雇い主には上がったのですが、そのバイトの募集はその時、一度きりになってしまいました。

その真相は、こうです。
ある休日に、いつも通り、アルバイトを路上に座らせていたところ、たまたまそれを見つけた近所の子供たちが大勢群がり始めて、ゲームをやらせろと騒ぎ始めたそうです。

しかし、子供相手では、商売にならないので、アルバイトが相手にしなかったところ、ついには泣き出した子供が親に訴えました。

その親は、たまたまPTAの役員をやっていたそうで、教育上、好ましくないと警察にチクった結果、すぐに警察官がやってきて、雇い主は廃業を余儀なくされたとのことです。

今でいうモンスターペアレンツのはしり、と言えるかもしれませんね。

写真:写真AC

ガジェット通信寄稿しています。1995年設立・出版編集プロダクション法人代表取締役兼カメライターの人。出版メディア業界歴20年。単行本50冊、雑誌/新聞100誌以上の執筆・取材・撮影・編集に携わりました。◆各種ご依頼などはこちらへ◆