犬おぼえがき「無愛想レジー」

  by ガニング 亜紀  Tags :  


犬の神様というお方は、自分だけでは手の回らない部分を人間の誰かに役目を割り振って担当させているようだ。とても重要な役割を与えられる人もいるし、ものすごーくちょっとしたことだけを任される人もいる。
ちなみに私は「近所の脱走犬監視役」に割り当てられている気がする。何しろ本当にしょっちゅう近所の脱走犬を発見しては連れて帰ったり、飼い主に連絡したりしているのだ。

近所に住むスミス夫妻も犬神様から間違いなくだいじな役目を与えられている。始まりはレジーだった。
現役を引退して毎日をゆったり過ごしていたご夫妻は「猫でも飼おうかしらね」と市のアニマルシェルターを訪れた。
猫が収容されているエリアに行くためには犬のエリアを通らなくてはいけなかったそうなのだが、そこに哀れな様子のテリアミックスがいた。
長い毛は絡まってボサボサ、ところどころ禿げたりカサブタがくっついたりして、吠えもせずに暗い目でこちらを見ていたそうだ。

テリアミックスと目が合った奥さんは「この子を連れて帰る!」と宣言した。ご主人は「え?猫じゃないの?しかもこの犬!?」と驚いたけれど「この子を助けなきゃいけない。私が連れて帰らないといけないのよ。」と言われ、それなら異存はないけれどと言うことで、その見るからに手のかかりそうな推定4歳のテリアミックスはスミス夫妻の家族となり、レジーと名付けられた。

夫妻はレジーにそれはそれは手厚く世話をした。私が初めてレジーを見たときは全体に毛が薄くてショボくれた感じだったのが、定期的なグルーミングとプレミアムフードが功を奏し、半年後には毛並みも整い可愛らしくなっていった。
しかし可愛くなった外見と裏腹に、レジーはスミス夫妻以外の人間にも他の犬にもちっとも心を開かなかった。私が今までに出会った犬の中で無愛想度はダントツの一位だった。人や犬にジロッと一瞥をくれてプイッとあっちを向く。それでも構おうとする人には思いっきりイライラした顔で低く唸っていたし、近づく犬にはガウガウ吠えていた。

夫妻は「これではいかん。これじゃレジーは幸せになれない。」とトレーナーに相談もし、1日3回の散歩でしっかり運動させ、レジーと遊んでくれる犬友達を探した。残念ながらうちの犬たちは、犬との付き合い方を全然知らないレジーを受け入れるような懐の深さは全く持ち合わせていなかった。けれどスミス家に来て1年ほど経った頃には、レジーにも芝生の上で転げ回ったり追いかけっこをするような犬友達が2〜3匹出来ていた。

夫妻と立ち話をする私や、隣で待っているうちの犬たちには相変わらずジロッと見てあっちを向く無愛想さだったけれど、唸ったり吠えたりすることはなくなった。普段は無愛想なレジーが、仲良しの犬たちといる時にはワチャワチャ楽しそうにしているのを見るのは微笑ましい光景だった。

レジーがすっかり見違えるようになった2年目のある日、スミス夫妻と歩く犬が一匹増えていた。白いテリアミックスなのだが、2年前のレジーを彷彿とさせるショボショボのコートで、薄い毛の間から透けている地肌は赤くなっているのが見て取れた。挨拶をして犬に目を向けた私に「なによ!こっち見ないでよ!」と言わんばかりに吠える姿に思わずニヤリとしてしまった。
「またレジーの時みたいに大変身させようとしてる?」と聞くと「そうなのよ。レジーがあんまり手がかからなくなって物足りなくなっちゃって。」と奥さん。白いテリアミックスは女の子でディキシーと名付けられていた。
人にも犬にもテンション低すぎだったレジーと反対で、見るものすべてに吠え掛かるような気の強い子だったけれど、半年ほどで毛並みもフサフサになって他の犬とも普通に挨拶したり遊んだりできるようになった。レジーが初めての犬だったというのに、スミス夫妻の犬に対する熱意と愛情、そして的確な対応には感嘆させられた。そりゃ犬神様から声がかかるのも無理はない。

そんな幸せな日々を過ごしたレジーは、一昨年推定12歳で天国に旅立った。レジーの具合が良くないとわかった時、スミス夫妻はレジーを迎えたばかりの頃のように様々な手を打った。鍼灸やレーザー治療、専門医のドアも叩いたけれど、レジーは犬神様のところに戻って行った。

そして数ヶ月が経った頃、ディキシーの隣を白に薄茶のブチのテリアミックスが歩いているのを見かけた。通りの向こう側からそれはもう盛大に吠える吠える!近寄らない方が良さそうねと、親指だけ立てて通り過ぎた。新入りテリア君は推定2歳の男子で名前はビリー。ビリーも夫妻の根気強いトレーニングでかなり行儀良く散歩が出来るようになって来た。ところがしばらくしてビリーにてんかんの持病があることが発覚した。犬神様はスミス夫妻のことを相当に深く信頼して難しい犬を任せてくるようだ。夫妻はビリーの治療にも手を尽くし、幸いにも良く合う薬が見つかってコントロールが出来ているそうだ。

レジーもディキシーもビリーも、シェルターからもらわれたは良いけれど、下手すればまた戻されてしまいかねないような犬たちだった。けれどボロボロでガウガウのレジーを生まれ変わらせた夫妻の自信が3匹の犬を幸せにした。
天国に行ったレジーがあの無愛想な顔で犬の神様にむかって「僕のパパとママなら、ややこしい犬でも大丈夫です。」と報告してるんじゃないだろうかなんて想像して口元を緩ませている。

(画像は著者撮影)

アメリカ、ロサンゼルス在住。 犬エッセイ、犬コラムを執筆。

ウェブサイト: http://blog.goo.ne.jp/smilesatla http://www.dogactually.net

Twitter: @Aki_Gunning

Facebook: aki.gunning