海外で見た日本 其の壱

  by ニコ・トスカーニ  Tags :  

ニューヨークのラーメン店。
寺川ラーメン

 「愛国ポルノ」と揶揄される種類の番組があるらしいです。
 自国を過度に礼賛する書籍やテレビ番組のことです。
 
 そういう番組では日本の食文化、日本の教育、日本の産業などなど日本のありとあらゆるものに世界中が興味を持ち
尊敬しているように見えます。

 そういう番組は主に二パターンのつくりに分かれているように思います。
 一つ目のパターンはその分野に従事する海外の専門家が来日して「ニホンスゴーイ」と称賛するもの。
 もう一つのパターンは日本の制作者が海外に渡航して現地で日本のものを探し
「日本のモノはこんなところにもある!こんなところにも日本ブームが!ニホンスゴーイ!」と称賛するものです。

 私は日本得意のモノ作りのエキスパートではありませんし自分が働く業界のこと以外は殆ど無知なので
一パターン目の方に関しては「まあ凄いのかもしれないね」と思うことにしています。

 ですが二パターン目には凄まじい違和感を感じます。

 日本は世界第三のGDPを誇る経済大国であり多くの国と国交があります。
 私は人口一千万にも満たないよな小国を含めいくつかの国を旅しましたがどこでも日本の痕跡を見つけることは難しくありません。
 それは日本の国際的地位が反映されたものであって日本ブームとは無関係なものだと思います。 

 この辺、立場を変えて表現してみましょう。
 たとえばアメリカのテレビ局が来て「日本で見つけたアメリカ!日本でアメリカブームが!」という番組の取材を東京で始めたらどう思いますか?
 アメリカは世界最大の経済大国です。
 「日本でアメリカのモノを見つけてそれでブームとか言われてもなあ……」と思いませんか?

 では実際のところ他国は日本にどの程度の感心があるのでしょうか?

 本稿では世界における日本のモノがどのくらい浸透しているのか。
 個人旅行者の観点から書いて見ようと思います。
 
 全部について書くと長すぎるので三回ぐらいに分割の予定です。

 以下、過去二年に私が渡航した国です。

 ・アメリカ(ニューヨーク)
 ・イギリス(ロンドン)
 ・香港
 ・シンガポール
 ・スイス
 ・ドイツ
 ・アイルランド
 ・エストニア

■二大国際都市で見た日本

 「国際都市」という言葉にピンとこない方にざっくり説明しておくと
 国際都市とは政治的、経済的、文化的な国際的影響力の強い街のことです。
 国際都市ランキングは発表する調査機関によって微妙にことなりますが
基本、どこの出しているランキングでもニューヨーク・ロンドンのワンツーフィニッシュは一緒なので
この二つを二大国際都市と呼んで差し支えないでしょう。

 前述の通り日本は多くの国と国交がある経済大国です。
 そしてニューヨーク・ロンドンは世界中から人が集まってくる街です。
 イギリスと聞くと何となく保守的なイメージがありますし、実際田舎の方に行くと白人割合は非常に高いですが
ロンドンは例外で二度目の訪問時に旅行代理店の送迎サービスを受けましたが(夜遅い到着だったので)
送迎してくれた現地ガイドさんの話だとロンドン市民の三割は外国生まれだそうです。
 ちなみに現地ガイドさんは日本人で送迎者の運転手はポルトガル人でした。

■ロンドンで見た日本

 私は大学院まで言っていますが専攻が19世紀英文学でした。
 ロンドンは憧れの街であり到着してまず訪れたのがウエストミンスターで、
その辺をただブラブラ歩いているだけで変な表現ですがおしっこちびりそうなぐらい感動しました。

 最初の訪問時はとりあえず有名どころ(ウエストミンスター寺院とかビッグベンとか大英博物館とかホントにド定番)を周り
二度目の訪問時は趣向を変えてテムズ沿岸の一人ウォーキングツアーをしたりメインストリートから一本外れた道を行ってみたりしていました。

 最終日、さあどこに行こうかと考えて行ってみたのがブルーアーストリートです。
 ブルーアーストリート(Brewer Street)はロンドン最大の繁華街であるライセスタースクウェアの近辺にあります。(エリア的にはソーホー)
 ここはジャップストリートと通称され日本料理店が立ち並び日本(のみではなく韓国・中国のものも含む)食品や雑貨が手に入ります。

 私はその日エールビールとフィッシュアンドチップスでもたれた胃を労わるために日本料理店を探していました。
 その時に訪れたのがライセスタースクウェアにあるTokyo Dinerという日本料理店です。

 実のところ二度目のロンドン訪問で一番感動したのはこの時だったかもしれません。

 世界で最も有名な日本料理はおそらくスシでしょう。
 スシはそれなりの規模の街に行けばスーパーでも売っています。
 そういうところで売られているスシは我々日本人の知るものと似て非なるものです。
 アメリカ生まれのカリフォルニアロールなどその典型例で国際的に受け入れられるとはつまり原典とは少し変わった形に
なって現地人の口に収まるということだと思います。

 Tokyo Dinerで出てきた料理はそういうものとは違いました。
 地球の歩き方で予習していたのでどんなものが出てくるのかは知っていましたが、
ご飯と照り焼きが定食の形式で出てきたとき私は心底感動しました。

 素朴な定食屋のオーセンティックな日本料理。
 しかも無料でお茶までついてくるという心遣い。
 (欧米圏に行ったことがある方はご存知と思いますがあの辺では飲み物は水だろうとお茶だろうと基本的に有料です)

 店を出るとき「ごちそうさまでした」と言いました。(この店のスタッフは日本人です)
 欧米風のマナーでいえば店を出るときはthank youと言うところです。
 どっちも美しいマナーだと私はおもいますがthank youと「ごちそうさまでした」は全然趣が違いますね。

 私はこういう店が存在しうる受け入れられるところが「国際都市」たる所以なんだろうなと思いました。
 以降、旅先での日本の物探しは私の癖になります。

■ニューヨークで見た日本

 アメリカは移民によって作られた国ですがその中でもニューヨークはコスモポリタン度合いが別格です。
 この街は全人口の三割以上が外国人だそうです。(統計によるとアメリカの都市で最も外国人居住者が多いのはロサンゼルス)

 実際この街で学校で習うような北米英語を聞くことは珍しく、タクシーの運転手はアフリカ訛り、レストランのウェイターは中東訛り、ベンダー(屋台)の兄ちゃんは東欧訛り
デリのおじいちゃんは韓国訛りでした。

 私がミッドタウンのホテルにチェックインしてまずやったのは五番街の散策でしたが
なんか銀座あたりにソックリだなあと思いました。

 これは香港、シンガポールでも感じたことですが洗練された先進国の大都市というのは何となく似るのかもしれません。

 ニューヨークは世界中から人やモノが集まる街なので当然日本のモノを見つけるのも簡単です。
 イーストヴィレッジには日系の店が集中しているらしいです(行ってません。伝聞です)

 五番街にはユニクロがあります。
 五番街から一本横道に入ると紀伊国屋書店があります。

 五番街のあるミッドタウンを南下しノリータに入ると無印良品があります。
 グリニッジビレッジにはゴーゴーカリーの店舗があります。(これにはちょとビックリ)

 前述の通りスシは世界的に最もよく知られた「日本のモノ」でしょう。
 私はプラザテル地下のフードコートでスシを買って食べました。
 ここのスシは見た目も味もオーセンティックな日本のスシとは明らかな別物でした。
 ですが味はなかなか悪くなくこうやって「ドメスティックなモノ」は「インターナショナルなモノ」になっていくんだろうな
と思いました。

 最終日。
 帰りの便が夕方の発だったの時間に余裕がありさて何を最後に食べようかと考えながらセントラルパークの付近を歩いていました。

 その時に見つけたのが写真のラーメン屋です。
 ラーメンはカレーと並ぶ日本の庶民的国民食であり近年まではドメスティックな日本料理でした。
 興味がわいたので最後の食事はここで取りました。

 出てきたラーメンは何というか「普通」でした。
 豚骨ラーメンで味は薄め、麺は柔めでしたが普通のラーメンでした。
 私の隣では白人の兄ちゃんが麺を啜って食べ(欧米人が麺を啜って食べていたのに驚き)向かいでは別の白人客が焼きめしを食らっていました。

 これが私の海外におけるラーメンとのファーストコンタクトでした。 
 そのあとに別の国の別の街でラーメンに出会います。

 その辺、稿を改めて書きたいと思います。

(写真。ニューヨークのラーメン店「寺川ラーメン」。筆者撮影)

青山学院大学大学院博士前期課程修了(英文学)、ネットワーク専門のエンジニアとしてIT商社勤務 双子の弟との共同制作、共同脚本、共同演出として自主映画数本を制作。近作で福岡インディペンデント映画祭の審査員特別賞を受賞 映画全般、日本アニメ、クラシック音楽、ジャズ、野球(観戦オンリー)が好き 学部生時代にイングランドに短期留学。英語がそこそこ話せる(旅行に行っても困らない程度)

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