【通勤読書】50(FINAL):道割草物語

  by 黒沢春希  Tags :  

<『道割草物語』 武川慎>
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この本は、今回でこの連載『通勤読書』が最後なので、「きっとこれから何度も読み直しちゃうだろうな」という目線で選びました。内容をざっくり説明すると、二十数年前に人間が滅亡した世界で生き続けている吸血鬼たちの物語です。『宿し直し』という方法で繁殖するため、登場する吸血鬼は大半が女性。この『宿し直し』は「血も記憶も魂も相手の全てを吸い尽くして、自分とひとつになった生命を吸血鬼としてお腹に宿す」という行為です。相手を吸い尽くして妊娠し、生み育てるわけです。男性吸血鬼は妊娠できないため、繁殖するために女性吸血鬼は女性を求めるように出来ているという、百合しか生まれない世界です。すごい!
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『みさお』『璃奈』『葵』『久美子』の四人は人類滅亡後の世界で同じ家に暮らす吸血鬼。世界には彼女たち以外の吸血鬼がいるけれど近所にはおらず、動物、植物、昆虫、魚、鳥などの生物と共存しながら、生活していて・・・という感じで物語は進行します。この4人は、みさおが璃奈を宿し直し、葵が久美子を宿し直している関係。生まれた後は宿し直しされた時の年齢になると外見的な成長はストップするので、子供に見える璃奈は吸血鬼として三百年ほど生きていますし、一番大人に見える久美子は吸血鬼としては二十年ほどしか生きていません。それぞれの関係は親子とも取れますが、恋愛感情を伴って永遠の愛を誓い合う形で宿し直しているので恋人というか嫁のそれ。でも、他に登場する『蘭』と『聖良』は恋人というより親子。宿し直しにも様々な理由と関係性があるようです。吸血鬼なのだから生きるための栄養補給は血液以外必要ないのですが、彼女たちは生活にハリが出るという理由で畑仕事での収穫や料理、食事という吸血鬼としては非生産的な行為を行います。毎日を楽しむスタイルです。もちろん、吸血行為も行うのですが、こちらも楽しむスタイルらしく、普通は首筋や手などから血を吸い合うのに、この4人はお互いの舌から吸います。理由は「味が絡んで美味い」から。なので、食事風景がエロいです。
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廃墟の描写が美しいです。もっと大きな画面で観たくなる描き込み。作者の方があとがきで「大好物でもある『百合』『吸血鬼』『廃墟』、この3つは親和性が高い」と書いていますが、本当にその通りだなと。特に、下巻の最後に描かれた璃奈を宿したみさおの表情が素晴らしいし、その後の日常を切り取ったスナップ写真のような絵が、3点の親和性の高さを物語っていると思いました。吸血鬼は血を分け合うことで共に生きていくのですが、それすなわち最小単位が二人でも大丈夫ということ。愛する人の傍にいられるなら私も好きになった相手を宿し直してみたいし、宿し直されてみたいです。人類は滅亡し、平和な毎日が続き、自分も愛する人も消えない。そんな終わらない世界の中で生き続けるって、どういうことなんだろう。なんてことを考えながら、私はこの本を、きっとこれから何度も読み直しちゃうと思います。 すごくおススメです!
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(写真は著者撮影)
※今後は紙媒体ではなく、Kindleで購入後、スマートフォンで読書することが増えたため、添付写真がこのスタイルになっております。ご了承ください。
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『通勤読書』は今回をもって終了とさせて頂きます。長いようで短い間でしたが、お付き合い頂き感謝します。またどこかで私の文章に触れて頂ければ幸いです。(黒沢)

Kindle作家と会社員の兼業。AmazonKindleにて小説発売中。通勤中の読書をテーマにのんびりと執筆していきます。

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