1億ドル超大作より『テラスハウス』!? NETFLIX日本社長の憂鬱

  by 荏谷美幸  Tags :  

2015年9月に鳴り物入りで日本上陸を果たした動画配信メディアNETFLIX。映像業界の勢力図を変える「黒船」と目されていたNETFLIXだが、上陸早々、日本特有の”閉鎖的ガラパゴス性”に苦戦を強いられている。

世界的大ヒットドラマより『テラハ』な日本人

NETFLIXと言えば、110億円(1億ドル)以上の制作費を投入し世界的大ヒットとなったオリジナルドラマ『ハウスオブカード』を皮切りに、『デアデビル』『マルコポーロ』『ナルコス』などのハリウッド映画顔負けの超大作ドラマが目白押し。それが月々950円で見放題なのだから、海外ドラマファン垂涎、加入者殺到かと思いきや、実はそうでもない。日本で人気なのは、フジテレビと共同制作した『テラスハウス』などの国内作品ばかり。せっかく世界的優良コンテンツが見放題なのに、字幕が面倒なのか、話数の多い海外ドラマに身構えてしまうのか、日本視聴者は国内制作のイージーコンテンツに流れがちだ。NETFLIXの基本スタンスは「ユーザーの嗜好に合わせたラインナップを取り揃える」だから、顧客の好みを批判することはないが、NETFLIX日本社長のグレッグ・ピーターズもこれには困り顔だ。「言語と文化の壁」と言ってしまえば簡単だが、クオリティよりも取っつきやすさに走る“ガラパゴス性”には頭を悩ませている。

行く手を阻む通信会社の壁

更に追い討ちをかけるのがデータ通信の「容量制限」だ。日本は携帯会社の談合によって、スマホでもWi-Fiでも一定容量を超えて快適な速度を維持しようとすると、1ギガ千円単位で課金されていく。これは動画配信メディアにとっては巨大な障壁だ。電車等での移動中にスマホやタブレットで高品質な映像コンテンツを見れるのが強みなのに、あっという間に容量オーバーして通信速度制限をかけられてしまう。つまり事実上、家にネット回線を引いている人が、自宅PCもしくはネット対応テレビでしかNETFLIXを見ることはできない。しかし、テレビをつけたら地上波放送が流れている中、NETFLIXを開いて作品を選び、視聴するにはちょっとした「決心」が必要だ。本来気軽に見れるはずの動画配信メディアが、レンタルビデオや録り貯めた映画を見るのと同じぐらいハードルが上がってしまう。結果として、NETFLIXに限らずHuluもAmazonも一般視聴者ではなくマニア向けツールになっているのが現状だ。

NETFLIXの今後を占う『火花』

そんな中、NETFLIXが起死回生の一本として制作したのが、芸人・又吉直樹原作の芥川賞小説『火花』だ。テレビ・映画各社との激しい争奪戦になったと言われるこのベストセラー小説の映像化権を手中に収めるには、恐らく相当の資金を投入したことだろう。制作陣にも、映画「日本で一番悪い奴ら」等でメガホンを取る白石和彌の他、沖田修一など4人の映画監督を揃え、「邦画を超えるクオリティー」で制作されたこの作品は、全10話という日本人に馴染みやすいサイズで公開されている。NETFLIXは、今なら1ヵ月無料で見放題。物は試しに『火花』だけでもご覧になってはいかがだろうか?

中国やインドも既に海外市場に目を向けて「世界に売れるコンテンツ」制作に力を入れている昨今、ガラパゴス化した「内向き」思考な日本の映像産業の中で、NETFLIXにはもう少し「脅威の黒船」として台頭してもらわなければならない。NETFLIXを使えば、日本発信のコンテンツが世界190ヶ国で爆発的ヒットをする可能性だってあるのだ。作り手も観客も、このニューメディアにもう少し関心を持ってみても良いのではないだろうか?

※この記事は、NETFLIX日本社長グレッグ・ピーターズ氏の講演及び、NETFLIX社員への取材を元に構成しました。
※TOP画像出典:http://thesource.com/2016/04/20/netflix-is-considering-the-addition-of-offline-viewing/

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