旅欠乏症

  by 紺野碧  Tags :  

ここ5年近く旅に出ていない。具体的には「知らないところ」を旅していない。それは毎日の生活に少なからず疲れを貯めこむことになり、そこから日常から切り離されたいという願望を強くするのだが、それだけではない副作用に先日気がついた。

私は写真を撮るのだが、今年はグループ展に出展するので、いつもとは違う写真を撮ろうとしている。そのためにまず手始めに晴海埠頭を撮りたいと思い立ち、今まで築地から先には行ったことがなかった晴海通りを、意を決して勝どき橋の先まで渡ってみた。

すると驚くべき心境になった。始めは見たことのない風景にドキドキして、ちょっとした「旅気分」「非日常」を楽しんだけれど、だんだん土地勘のないところを歩くことに不安を感じてきたのだ。当たり前だが日本語が通じるし電車の駅もすぐ近くにある。そもそもスマホのナビを使って歩いていたので地図もある。だが、やっぱり怖いのだ。結局今まで乗ったことのない大江戸線の勝どき橋からスタコラサッサと帰宅した。

それは少なからず私にとってショックだった。20代のころにも、40代直前にも、一人で土地勘のないところに旅することに何の躊躇もなかった私が、こんなに恐怖感を持つとは…旅から離れすぎてしまったせいだと思った。

この状態ではいきなり晴海埠頭に行ったら不安で写真撮影どころではない。早急にこの、いわば旅欠乏症とでも言うべき状態を治さねばと思う。だから、次は勝どき橋からもう少し晴海埠頭に近づいてみようと思う。もう少し歳をとってこの状態になったら、もしかしたら治すことを諦めてしまうかもしれない。少しづつでもリハビリしないと。そうでなければ自分の世界をどんどん狭めてしまう。それは非常にまずい。どうしても避けたい事態だ。

こんなに切実に危機感を抱くのは、やっぱり旅が私にとって空気のように必要なものだからなんだろうな。日曜日の午前中、ふとそんなことを思った。

海辺の住人。三度の飯より映画とダンスと写真が好き。