勝手に大反省会!「THE MANZAI 2011」決勝レポート

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THE MANZAI公式サイト http://www.themanzai.com/

2011年12月17日夜半―約半年に及ぶ予選・本戦サーキットを経て「THE MANZAI2011」がその幕を閉じた。発起人である島田紳助不在というアクシデントを乗り越え、司会にナインティナイン、最高顧問にビートたけしを擁立。たけしが諸事情で早退後は爆笑問題がゲストで登場するなど、事務所の垣根を超えて笑いのパイオニア達が番組を盛り上げた。その甲斐もあり、4時間という長丁場の生放送にも関わらず平均視聴率は15.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の高視聴率を記録した。
ここ数年、テレビのお笑い番組(特にネタ番組)は厳冬期を迎えていた。ゼロ年代のお笑いブームを牽引した「エンタの神様」が視聴率を一ケタに落とし打ち切りとなったのを皮切りに、「爆笑レッドカーペット」「イロモネア」最近では「あらびき団」が続々とレギュラー放送を終了させた。M-1の終焉は言わずもがなである。M-1の出場資格をとうに失ったベテラン、結果を残すことが出来なかった中堅、結果を残すにはまだ時間が必要だった若手・・・「THE MANZAI」はそうした日の目を浴びることが出来なかった彼らに平等にチャンスを与えた。本当に面白い漫才をする芸人を審査できちんと選べば、知名度関係なく視聴者は必ず付いてくる・・・それが、今回の結果・数字に表れたのだろう。
と、堅苦しい論評はここまでにして、今回出場した15組と最終決戦の模様をレポしていこうと思います。

【決勝Aブロック】
記念すべきTHE MANZAIの歴史を彩る第一投を放ったのはトップバッターの囲碁将棋。文田が水曜日だけ某国民的歌手・チャゲに扮するという変わり種のネタで、会場を暖めた。トップバッターというハンデを差し引いても笑いの量は十分。チキチキジョニーは唯一の女性コンビ。芸能人の顔に整形したいと願望を述べるも、大半は悪口の毒っ気たっぷりの漫才。安定したしゃべくりのテクニックと、ボケの石原が正面から顔を叩かれた時のリアクションがお茶の間の爆笑を誘った。Aブロックを制したナイツは前半は流行りのアーティストをネタにしたボケを連発し、後半は塙が往年のTRFや安室奈美恵・布袋寅泰の名曲が次々と癖の強いメロディーにつられていく新しい切り口のボケの応酬。土屋のツッコミも冴えわたった。予選で好成績を残した勢いで挑んだ磁石は惜しくもナイツに及ばなかったが、反抗期の少年をライトに演じ切った。奇しくも同日に亡くなった金正日総書記ネタが飛び出すなど時事ネタを上手く放り込んだ。ボケの永沢は後述のHi-Hiの決勝進出に男泣きをするなど、苦労人の横顔が垣間見えた。

【決勝Bブロック】
「死のブロック」との下馬評が高かったが、蓋を開けてみれば4組中3組が同票。まさに死のブロックを象徴する結果となった。死闘を制したのは、国民投票である「ワラテン」の高いコンビが優先という規定により選ばれた、結成18年目の苦労人・Hi-Hiであった。知名度ほぼゼロのフレッシュさと、上田の高田純次を彷彿とさせる「パスタ巻いてる?」「湯沸かし器カッチッチッチ、ボッっていってる?」といった軽やかなボケが好感を得た。惜しくも決勝を逃したが、テンダラーはこれぞ関西の漫才師という貫禄を見せつけた。浜本が必殺仕事人のテーマを口ずさみながら現れるシーンは、繰り返せば繰り返す程笑いが増幅。「テンダラーが一番面白かった」という声も某大型掲示板で多く見受けられた。Hi-Hi・テンダラーと同票で決勝を逃したもう一組はスリムクラブ。のっけから宗教を口にするなどギリギリのテーマ、真栄田が演じる奇異なキャラクター、間をとってじわじわと笑わせる手法は健在。予選では好成績を残しながら、ハマカーンは惜しくも結果を残す事が出来なかった。しかし、浜谷の鉄板である「下衆の極み」というフレーズが出た瞬間拍手が巻き起こり、ハマカーンへの期待度を大きく感じられることが出来た。

【決勝Cブロック】
予選で圧倒的大差をつけての1位通過となったパンクブーブーを打倒すべく、3組が彼らに挑戦状を叩きつけた。大阪からの刺客は学天即。15組中の中で最も芸歴が浅く、知名度も最も低いと思われるが、歴史上の架空の人物「辻道連之進」をテーマに技巧派の漫才を展開。定評のある奥田のツッコミで存在をアピールさせた。打って変わって芸歴20年超えの博多華丸・大吉は祝い事のスピーチという渋すぎるテーマを軸に、アドリブを思わせるような自由律なネタ運びが老獪さを醸し出していた。たけしから「もう少し(点を)取ってもいいのでは」と好意的なコメントが寄せられ、華丸の目に光るものが。大会をかき回すべく、コント界から送り込まれたのはアルコ&ピース。スーパーマリオをテーマに、コント師ならではの高い演技力と歌唱力、独自の世界観で観客を魅了(唖然とも?)させた。満を持して登場したパンクブーブーはまさに横綱漫才。佐藤哲夫の怖い話は十分視聴者もパターンは読めているはずなのに、何故か笑えてしまうオトボケな感じ。黒瀬の翻弄されっぷりも、安定の域である。

【決勝Dブロック】
予め選ばれた3組と、ワイルドカード(敗者復活)で選出された銀シャリの計4組が最後の椅子を賭けて挑んだ。エルシャラカーニもまた、Hi-Hiらと同じく永らく苦悩の時代を経験した苦労人である。ボケの山本の最早何を言っているかわからない言い回しと、ひたすらイルカの「なごり雪」の冒頭の歌詞に「ハト」が登場するなど、予測不可能の暴走振りをセイワが上手く軌道修正。彼らにしか出来ない味のある漫才で観客を和ませた。そして、M-1では常に笑い飯の後塵を拝していた千鳥が、初めて単独で挑んだTHE MANZAIでその力を見せつけた。旅館の予約をすべく、ノブが電話した相手が大悟扮する伝説のキャラクター「白平(はくべい)」。15組中最も個性的な立ち振る舞い、独特の岡山弁、白平の世界観は視聴者の想像力を大いに喚起させる漫才だった。東京でもその知名度を上げつつあるウーマンラッシュアワーは、鉄板のバイトリーダーのネタが光った。村本の滑舌が決まる度に大きな拍手が巻き起こり、観客の声援をものにした。激戦のワイルドカードを制した銀シャリは、童謡「犬のお巡りさん」。昼間の疲れや緊張も見せず、鰻の御機嫌な歌声が会場を和ませ、橋本もまたいつも通りキレのいいツッコミで15組のトリを締めくくった。

【ファイナルラウンド(最終決戦)】
トップバッターは、死のBブロックを制したHi-Hiが勢いもよく最後まで突っ走った。ドラゴンボールのくだりは彼らが売れていなかった頃のネタの一部であり、後半のギターのネタは彼らが元ミュージシャンであった事を彷彿とさせる。北斗の拳のネタも、彼らのもう一つの副業である「パチンコ・スロット」を連想させるのは、半ば強引か。途中上田が岩崎に発した「お前の18年間を放り込んで来い!」というアドリブもさることながら、この1本の漫才でHi-Hiが辿った軌跡をすべて振り返ることが出来たような気がした。
二番手で登場したナイツはこれ見よがしにフジテレビに「魂」を売り飛ばした、フジの名作ドラマをおちょくる漫才。舞台での彼らは、テレビで見るそれよりも大分エッジの利いた塙の毒舌や暴言を楽しむことが出来るが、どうしてもテレビでは「自主規制」や「放送コード」の影に隠れ、ナイツの真骨頂を垣間見ることが困難であった。しかし、最終決戦に挑んだ彼らは違っていた。御存じ、国民的アイドルであった酒井法子と麻薬を強烈にいじるネタで仕掛けてきたのである。正直これをテレビでやるとは予想だにしていなかった。これはナイツが本気で戴冠を狙いにいった「魂」のこもった漫才を初めて視聴者に余すところなく見せつけてきたのではないか。そして、爆笑問題が肩を揺らして本気で笑っていたのが、彼らの「想い」が伝わった何よりの証であろう。売り飛ばす魂に、戴冠へピュアでひたむきにぶつかる魂。この二つを感じる事が出来ただけでも、十分だった。
そして今回の優勝者・パンクブーブーは新聞の勧誘員という今までありそうでなかった切り口で、歯切れのいい漫才で短くまとめた。優勝を獲るのに「4分」も必要ない・・・そんな意思表示かと思いたくなる程である。間も、ボケも、ツッコミも全て完璧。何も言う事が出来ない。優れた芸術的作品を見るような気持ちになった。ただ、最近の彼らの漫才は余りにも「隙」が無さ過ぎるのか、彼らが本来持ち得る「愛らしさ」が鈍色(にびいろ)を帯びてきているような気がしてならない。しかし、佐藤哲夫の「頭にくる!・・・かと思った」といったような、ひとつ本筋を外すようなボケは何度見ても噴き出してしまうし、黒瀬の「ブス!ブス!」と何故か男の佐藤に突っ込んでいるのが妙にチャーミングであった。
ラストを飾る千鳥は、決勝ブロックと同じパターンのネタで挑んだ。通販の電話オペレーターに扮した大悟がひたすら商品名を「蒸し穴子」と誤読し続け、最早伝説となった「白平」まで飛び出し、笑いは最高潮に達した。絶対に大悟は次も蒸し穴子と言うに違いないと100%分かっているのに、それでも笑えてしまうのは「蒸し穴子」の言葉の持つ起爆力なのかも知れない。先述の旅館ネタで頻繁に使われてきたキーワードである「智弁和歌山高校」もまた然り。余談であるが、この通販ネタは2009年のM-1に於いての千鳥の勝負ネタであった。この日と同様、予選は大爆笑。あの笑い飯をしても「(2009年の)千鳥はいいネタをしていた」と言わしめた程である。だが、結果は準決勝敗退・・・そこから約2年の歳月を経て、漫才師としての千鳥はここに大きく花開くこととなった。

そしてパンクブーブーが5票を獲得し、初代チャンピオンに輝くこととなった。ナイツが本気で悔しそうな顔をしていた以外は、皆清々しい笑顔で大団円を迎えた。そして、ワイルドカードに進出した芸人達も最後まで会場に残り皆で打ち上げを楽しんでいたのが印象に残った。今回の審査システムやワイルドカードの扱いを通して、今までのM-1と比べて大きく差異を感じたのは、主催者側が最大限に芸人に敬意を払い、誰もが結果に対し必要以上に傷つくことがないよう配慮していたことであった。最下位に甘んじたコンビが「日本一面白くないコンビ」のような印象を与えざるを得なかったり、敗者復活組は極寒の大井競馬場で震えながら漫才をしていたり・・・そんなシビアなM-1とは随分趣向が異なるが、どちらが悪いというものでもない。こういう大会もあっていいのだと思うし、またM-1のような芸歴10年縛りの緊迫感のあるコンテストも見てみたいと思う。来年以降も、末永くこの「THE MANZAI」が発展し続けることを、心から祈りながら。

1996年ライターデビュー。非合法ミニコミ「権力の犬」主催。1年余り活動した後に、一身上の都合により完全沈黙→→→→約15年の潜伏生活を経て2011年一身上の都合で勝手にライター復帰。 得意分野はお笑い全般。爆笑オンエアバトル(現オンバト+)の審査員やら、東京の非吉本やら大阪は5upよしもとの若手までレンジ広く補完中。というか笑い飯のファン。俗に言う80年代のアニソン・B級アイドル・アメリカ横断ウルトラクイズ・バンドブーム・漫画・プロ野球・高校野球を広く浅めに嘗めてきました。浜松方面の「書く」仕事も絶賛募集中。普段の啓蒙活動はブログ・ツイッター御参照ください。

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