【哀愁鉄子の物語】大連の旅(3)新旧が共存する街

  by aiko  Tags :  

大連は海に囲まれているので、当然ながら自慢の食は海鮮料理です。二人旅行では、観光客向けの料理屋さんでフルコースなどを食べるのも、なんだかもたれるなあ、という気がしていたため、民生街の端にある市場で、ビール飲みつつ簡単につまむことにしました。こんな市場も、ものすごい高層の近代ビルに囲まれた谷間に突如あらわれます。

立派な建物があっても、常に軒先に出たがるのがアジアの特徴。ショップも飲食店も、とにかく外に出てきて地面に座ったり、簡易なスツールに腰掛けたりして商売をします。店先でぎゅうぎゅうと肩寄せ合っているのに、建物の中はがらんどうだったり、がらくたが積まれていたり、日本人の感覚からするとほぼ廃墟だったりします。どうして屋内空間を有効活用しないのかいつも不思議に思うのですが、外でわいわい、というのが一番の贅沢なのでしょうか。

この市場では夕方になると、テーブルが出てきて、その場で肉や魚を焼いて食べさせてくれます。英語は通じないけれど、ほしいだけを指の本数で表わして指差すと、1本から注文できました。

日本の串焼きとは違い、ネギやにんにくのまざった独特なたれがかかっていて、ホタテなどかなりの美味。スパイシーなので、ビールも進みます。ここで飲み物を頼むと高いらしく、周りを見回すと、他のお客さんたちは勝手に持ち込みをしているようでした。お皿とコップは用意されているけど、どうやら誰も使っていません。友人曰く、使うと料金を取られるのだそうです。

料理が乗ってくるお皿も、ビニール袋をかぶせてあって、使うたびにこの袋を取り替えるだけ。そうかあ、これでいいのかあ、と感心していると、店員のお兄さんが私たちのテーブルに運んできたホタテを、マネージャーらしき女性の店員さんが見て、やおら「これはだめ! 焼けすぎじゃないの!」(たぶん)と言い放ち、一旦下げさせ、また新しく焼いたものを持ってきたりしました。愛想はよくないけれど、言葉の通じない日本人にも、味のクオリティーだけは絶対に下げない、という心意気を感じました。

さて、大連は、ヨーロッパの街並みを手本にして作られたので、広場を中心に放射状に道が広がっています。地下鉄を中山広場で降りると、まさに広場の真ん中に出口があり、ぐるぐると激しく車が走るラウンドアバウトを横断しなければなりません。信号がないので、ここはやはり、現地の人についていく安全策をとります。大連滞在中にわかったことは、横断していて車が近づいてきたら、向かってくる車に対向して、臆せず斜めに前進していくのがポイントだということ。ついつい車に背を向けて逃げそうになるのが本能ですが、これだと逆に車の近づいてくるスピードも読めなくなるし、車の方も、人がどんな動きをするのか予測がつかなくなり、危ないのです。

中山広場の周りには、ぐるりと一周、歴史ある大きな建物が立ち並んでいます。これらのほとんどは日本統治時代に日本人建築家の設計で建てられたものだそうです。大連賓館は、旧大連ヤマトホテル。かつて夏目漱石も泊まったと言われています。その他には、旧大連民政署、旧関東通信局、旧大清銀行大連支店などなど、どれもルネッサンスやゴシック形式の豪奢な建築で、当時の日本の建築家の力量を感じることができます。

中山広場から魯迅路という通りを10分ほど歩いていくと、旧満鉄本社があります。荘厳な3棟からなる建物の一つの前に、満鉄の本社だったことを示す石碑が建てられていました。

南満州鉄道(満鉄)は、鉄道事業を基盤に、製鉄や炭鉱開発、航空事業やホテル経営など(先のヤマトホテルしかり)、幅広い事業を展開し、事業拡大につれて、この本社もだんだんと大きくなったようです。近くには、旧満鉄図書館などもあり、統治時代には、中山広場からこの辺りが、駐在員などたくさんの日本人で賑わっていたのだろうと、昔日に想像が膨らみました。この日は、私たち以外には、この史跡を訪れている人たちは見かけませんでした。満州時代をここで過ごした人はもとより、親の都合で満州で生まれた人たちも、もはや高齢となり、この地に訪ねてくる日本人観光客の数も減っている印象を受けました。

満鉄本社は、路面電車の「世紀街」という電停から目と鼻の先です。

路面電車の運転手や車掌は、慣習的に女性が多いらしく、私が乗った旧型車両の運転手も女性でした。旧型車両には、冷房がありませんが、内装などは趣があります。

「民生広場」の電停のすぐ近くに、路面電車の車庫があります。電停との間の線路を使いながら、女性の運転手たちが、運行する電車との合間合間に、うまいこと車両の入れ替えを行ったりしていました。新旧車両が揃って顔を出しています。日本統治時代の古い車両もここで手入れを重ねつつ、今も現役で走っているのです。

Photos by aiko

女性鉄道ファンです。普段は会社員をしています。SLと廃線が特に好きで、ぽちぽちと各地の保存車両や廃線跡などを巡っています。ブログ「哀愁鉄子の物語」を運営しています。

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