人の心にあらず!精神病の住人を追い出そうとするなんて….

  by あおぞら  Tags :  

『精神』というドキュメンタリー映画がある。モザイク処理なしの精神病患者を追った作品で世界の映画祭で賞を受賞し、アメリカ、ドイツ、アラブ首長国連邦、またアジアでは日本は言うに及ばず、韓国、台湾、香港でも公開された。

心の病を持った人たちが世間から精神的にも隔離され、当事者たちの悩み、苦しみ、不安、そして目には見えない健常者との間にカーテンが引かれているような状態であることをつぶやく。

監督自身がニューヨーク在住で、アメリカでの上映はニューヨークの近代美術館で公開され、多くの人が足を運びその中の1人が私だった。精神病を患った人たちに世間は冷たいし、かつ関心があるくせして無関心をあえて装うような気がした… 6年前の公開が遠いようにも思うし、一昨年位に思えたりして…..

さて、私の住むアパートは800世帯も住む大きな集合体だ。同じ階にちょっと変わったというかエキセントリックな女性がいる。ブルドックを連れて廊下を歩くときは大声を出すし、またアパートの入り口で露出度の高い体に密着した洋服を着てヘッドフォンをつけ体を微妙に動かす。私がこのアパートに住み始めた90年代半ばからこの女性は住んでいて、当時はスレンダーでボディコンを着て、いても周りの男性の目を惹きつける魅力があったが、白人女性の年の取り方の加速度は恐ろしいもので、今やかなりぽっちゃり系のおばちゃんになっている。若いエキセントリックな女性はまだいいけど、中年太りのエキセントリックはちょっと受け難しと言う印象は否めない、加齢は残念である、文字にすべきではないけど正直な感想だった。

ところで友人に我が住まいを映した写真を検索して送ろうと思い、今まで見たことのない屋上から映しているかなり画質の良いものを見つけた。その写真が添付されている新聞記事はニューヨークのタブロイド紙的なニューヨークポストで日付は昨年の5月だった。自分の住まいが記事になっているので興味をもって読んでみたら、先述のエキセントリックな女性がこのアパートの住人の役員たちから追い出しにあっていると言うのだ。その記事ではその女性が51歳であることと、住まいの持ち主はフランクと言う77歳の男性で、年の離れたエキセントリックな女性は長年のガールフレンドであり、女性はこのアパートには1991年に入居したことを記事で知る。確かにその女性はその男性を大声で『フランク!』と呼び、呼ぶときはいつも癇癪をおこしていた。毎度毎度困った住人と同じ階に住んでいることを内心嘆いていたが、実際精神病を患った人であったことを知り、それを理由に住人の役員たちは追い出しにかかっていたのだ。

フランクは今はこのアパートで見かけない。記事によればブルックリンに住んでいるようだが、エキセントリックガールフレンドを追い出す追い出さないの諍いでアパートの一室を持っているフランクがアパート側と裁判で争っていた。この記事は1年前だからエキセントリックな女性は今52歳、そして今は同居していないボーイフレンドは78歳。女性がアパートに入居した当時は27歳で、ボーイフレンドは当時53歳。その年齢からすれば当時はスタイル抜群だった女性はプレイメイト的に思えたのであろう。私は女性が30を超えた頃にこのアパートに入居したが、当時もオカシイ様子はあったけどブロンドの所謂ダイナマイトボディーで男性の目をくぎ付けしていた。同じ階なのでかなり年の離れた男性と住んでいるのはわかっていたし、その女性が普通の勤め人に見えるはずはなく『愛人?』と思っていたくらいだ。

精神病を患っているこの女性をアパート側が追い出す理由として、露出の多い洋服を着ていること、禁止されている鳩に餌を与えること、飼い犬のブルドックが住人を噛むこと…とされているが、この飼い犬はMAXと言い、いつも女性が連呼しているので知っているのだが、おとなしい愚鈍なくらいの犬で人を噛むことなどありえない。それに鳩に餌を与えているところなど一度も見たことがない。精神病の人だから健常者が平気でウソをついて裁判を有利にしようとしており、怖さを感じる。

昨日も出かける時、アパートの入り口で贅肉たっぷりだけど、それが固まったようながっしりしたお腹を丸出しにして女性はイヤホンをしていた。外出から戻った時も同じ格好でずっとその場にいたようだった。いつもの光景でそれほど気にはしなかったが、帰宅してパソコンをつけて我が家の写真を検索していて、ついでにその本人がニューヨークポストの記事の当人だと知って驚く以上に驚いた!

記事の中で今は一緒に住んでいない高齢者のボーイフレンドは『彼女を追い出してどうするんだ?マンハッタンの街角にでも放り出せとでもいうのか!』と発言していたが、男気がある。普通、精神病を患った若いガールフレンドがいた場合、年と共に贅肉をつけると共に別れていくのが世間の相場とも思っていたが、この78歳の男性は今でもこのガールフレンドを自分の物件に住まわせているのだ。世知辛い世の中で、自分本位の人たちが多い大都会で、長年のガールフレンドをアパートから追い出されないように裁判で闘う78歳の高齢者、そして自由気ままに生きている52歳の今はぽっちゃりの心の病のあるガールフレンド。そこには救いと愛があると思った。

今も彼女はこのアパートに住んでいる、目出度し、めでたし。

ニューヨークから発信しています