「高齢者の反乱」「南北格差」──大阪市住民投票の決着後も開票結果をめぐり様々な分析が飛び交う

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5月17日に行われた大阪市の特別区設置、いわゆる『大阪都』構想の賛否を問う住民投票は反対(大阪市存続)多数で決着しましたが、結果の確定後も開票結果をめぐって様々な分析が飛び交っています。

かねてから橋下徹市長支持を表明しており、『大阪都』構想賛成(大阪市廃止)の代表的な論客の1人であったフリーアナウンサーの辛坊治郎氏は、翌18日早朝の読売テレビ『朝生ワイド す・またん!』で各社の出口調査において70代以上の反対が過半数だったことに関連して「反対派は圧倒的に70代以上」と断言して不満をぶちまけていたのが代表的で、辛坊氏と同様の意見は『Twitter』でも多く見られました。
しかし、各社の出口調査を見ても70代以上の過半数が反対だったことこそ共通傾向であったとは言え、NHKでは30・40代より20代の反対(大阪市存続)が多めに出ているのに、他の調査ではこの3世代に余り有意の差が見られないことを挙げ、「期日前投票分や各区の人口比、年代別の投票率が反映されていない調査が多いため、この数値だけを見ても全体の傾向を把握するのは不可能に近い」との指摘も見られます。
また「仮に70代以上の投票率が100%で全員が反対票を投じたとしても賛成(大阪市廃止)が過半数となる」との試算を挙げ、「特に賛成票が多い傾向が見られた30・40代の棄権は70代より多く、この世代の棄権者に賛成票を投じさせるだけの説得力を持った協定書を作れなかったことが賛成側の敗因ではないか」とする分析も見られました。

この他、賛成(大阪市廃止)が過半数となった区が北区・福島区・淀川区など北部に集中しており、逆に生野区・西成区・住吉区など南部と大正区・港区・此花区など(新「湾岸区」となる予定だった)沿岸部では反対(大阪市存続)が過半数となった傾向を指摘して、「市内の南北で顕著にみられる所得格差と符合する」と言う分析もありました。しかし、東成区が22票差で賛成多数となったのを筆頭に、多くの区では賛否の割合が5ポイント差前後に収まっており、どちらかがダブルスコアで圧倒したような区は1つもありませんでした。
仮にアメリカ大統領選挙のような「勝者総獲り」方式だったとしてもトータルでは反対が13区・賛成が11区となり、人口比でも反対多数の区の合計の方が多いため、「1区1票」にしろ「区の有権者数に応じた選挙人総獲り」にしろ反対が僅差で多数となる結果に変わりは無かったことになります。

今回の投票結果に不満を持つ賛成(大阪市廃止)支持側の一部には「年金生活者や生活保護受給者の投票権を剥奪・制限すべきだ」と言う極論も飛び出していますが、そのような制限投票の実施は、明治時代に高額納税者の男性のみに選挙権を付与していた制限選挙から普通選挙への転換が図られた経緯や、憲法の趣旨に照らし合わせても問題と言わざるを得ません。

なお、一部の報道で今回の住民投票を「史上最大」と表現するものが見られましたが、厳密には「自治体の廃置分合を議題とした住民投票」として「史上最大」と言うべきです。「自治体の廃置分合」以外の議題を含めた場合に「史上最大」の住民投票だったのは1950年(昭和25年)4月22日に東京都で行われた首都建設法案の承認を求める投票で、この際は賛成が102万5792票・反対が67万6550票の賛成多数で承認されるという結果でした。

画像‥大阪市公式サイトより「大阪市における特別区の設置についての投票の開票結果」
http://www.city.osaka.lg.jp/contents/wdu240/sokuho/kaihyo_data_10.html [リンク]

1975年、兵庫県姫路市生まれ。商工組合事務局勤務を経て2012年よりウェブライター活動を開始。興味のある分野は主にエンターテインメント、アーカイビング、知的財産関係。プライベートでは在野の立場で細々と文学研究を行っている。

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