運動なしに躾はできない

  by 田中 雅織  Tags :  

肉体的、精神的健康のために運動は欠かせない

我々ヒトも同じ事が言えますが、肉体的にも精神的にも健康のために犬もしっかりと運動をする必要があります。運動が不足していると有り余るエネルギーの発散ができなくなり、その代わりとして”吠える””噛む””壊す”などの問題行動に発展しやすくなります。さらに運動不足が慢性的になると興奮しやすくもなります。犬が興奮している時は得てして飼主の言うことを聞けなくなるものです。興奮状態が長く続いていると些細な物音や、何かの刺激に対して敏感になり、その反応として吠え続けてみたり、攻撃性が表れてしまったりもします。反対に適切なエネルギーの発散ができていれば過度に興奮することもなくなります。犬が穏やかな時はこちらの指示も通り易くなります。また適切な運動は健全な身体の成長にもとても大切です。

散歩と運動の違い

散歩は歩くことがメインです。散歩では移動を行いながら匂いを嗅いだり、自分の匂いを残したり(マーキング)して環境情報の収集や表示をするのが目的です。これらのアクティビティは犬の欲求では”探索”と”縄張り活動”に当たります。我々に置き換えれば新聞を読んだり、ネットでニュースなどを見て今起こっている事を確認するような作業に似ています。一方の運動では全身を使ったアクティビティです。匂い嗅ぎやマーキングなどは行いません。とにかく身体を動かしてエネルギーを発散させる必要があります。

せっかく運動させるならコミュニケーションを取ろう

愛犬をドッグランなどの自由に走れる所に連れていっても、まったく走る気配がない….なんてこともよくあることです。しかし何かの動機があれば運動を始めます。例えばボールを使ったレトリーブ(ボールを投げて持ってこさせるなど)遊びもとても有効です。ボールに興味を示さないようなら、ドッグラン内で飼主が走ってみてください。愛犬は飼主と離れる不安から付いて行こうとします。犬が付いて来たら走りながら「いい子!、おいで!」とテンションを上げ気味で励まします。すると愛犬も飼主が喜んでくれる様子を理解して飼主と一緒に走るようになります。これを繰り返していると、愛犬は喜んで走るようになるでしょう。ただ走らせるのではなく、こちらのキッカケ(ボールを投げるや走って褒めるなど)で会話を混ぜながら行うと、犬は”走れる喜び”と”飼主の存在”を結びつけるようになります。ポジティブな事(運動するや褒められる)と飼主を結びつけられると、日頃の愛犬の態度も変わってきます。つまり飼主=ポジティブという図式ができると、飼主の指示をポジティブに受け入れられるので素直に従ってくれるようになるわけです。

運動の量に気をつけて

運動の量は犬の年齢、健康状態に合わせて調整してあげてください。若い犬なら数十分運動しても大丈夫でしょう。反対に老犬なら少なめにします。犬が停まっている時などに呼吸の状態(呼吸が早すぎないか)、舌の色(健全な赤みがあるか)などを見て無理のないような運動量を与えます。犬が一休みしている時は、その行動を尊重して休ませます。若犬ならひたすら走り回りますが、年齢が増すに連れて走っては休みを繰り返すようになります。しっかりと観察して無理な運動をさせないようにしましょう。

まずは犬のニーズを満たす

愛犬にこちらの言うことを聞いて欲しいと思うなら、まずは犬のニーズを満たしてあげましょう。適切な運動は健康管理に欠かせない生理的な欲求です。その欲求を満たしていれば、無駄なストレスを溜めずにすみ情緒の安定に一役買います。さらにコミュニケーションを取りながら運動ができることで飼主との信頼関係の構築にも大いに貢献をするでしょう。運動を飼主と共に行う事で信頼関係が強化され、エネルギーを発散できた愛犬は、こちらの指示への応答性も高まります。それにはまず、生理的な欲求である運動を適切に行いたいものです。信頼できるパートナーである飼主と一緒にエネルギーの発散をしている犬の姿は喜びに溢れ、とても美しいものです。躾をするなら先に愛犬のニーズを満たしましょう。
”求めるなら、まずは与える”
この事から始めては如何でしょうか。

TOP画像は著者の愛犬を著者により撮影したもの。

DBCA認定ドッグビヘイビアリスト(犬の行動心理カウンセラー)・JCSA認定ドックトレーナー(家庭犬訓練士)・動物行動学研究者(日本動物行動学会)。 警察犬訓練所でドッグトレーニングを学び、その後に英国の国際教育機関にて”犬の行動と心理学上級コース(Higher Canine Behaviour and Psychology)”を修了。ドッグビヘイビアリストとして問題行動を持つ犬のリハビリを行っている。保健所の犬をレスキューする保護活動にも精力的に取り組んでいる。 動物行動学・心理学・認知行動学を専門とし、犬がペットとして幸せな暮らしができるよう『Healthy Dog Ownership』をテーマに掲げ、動物福祉の向上を目指して活動中。 一般の飼主さんだけでなく、行政や保護団体からの依頼も多く、主に問題行動のリハビリが専門。 訓練(トレーニング)やリハビリの事、愛犬との接し方やペット産業の現状などについて執筆している。 著書:散歩でマスターする犬のしつけ術: 愛犬とより強い絆を築くために(amazon Kindle)・失敗しない犬の選び方-How to Choose Your Dog-(amazon Kindle)

ウェブサイト: http://www.healthydogownership.com

Twitter: HealthyDogOwner