「貧しさ」を媒介にして労働者は団結できるか?

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『毎日新聞』の「特集ワイド:『怒れる若者たち』集会 世界と連動、約100人 都心で反貧困、反原発」という記事を見ていろいろ考えさせられたので、これについて少し。

1 東京を占拠せよ

この記事は、記者が「ニューヨークで続く反格差デモ『ウォール街を占拠せよ』の日本版」と呼称する「東京を占拠せよ!」の取材に行き、それを記事にしたものです。

15日にツイッターなどの呼びかけに応じたのは約100人で、20代から40代ぐらいが大半だったそうです。そして、「ウォール街を占拠せよ」の日本版というだけあって、「WE ARE THE 99%(我々は99%)」というスローガンが最も多かったとしております。記者はここから「格差是正、特権批判などさまざまな意味」を読み取ったとしています。

それ以外にも、「若者も怒ってるよ!! 怒!怒!怒!」「格差是正・反失業」「富はすべての人のために」「原発輸出反対」「兵器より社会保障を」と様々なスローガンがあり、これを受けて「政党や労組が呼びかけるデモや集会にはみられない多彩さ。つまりは、あいまいさやまとまりのなさが特徴だ。」と分析しております。

そして、この集会を呼びかけたNPO「アジア太平洋資料センター」の内田聖子事務局長の「先進国の市民が『我々は99%』と言い始めた。アジアやアフリカなどの途上国でも貧困は解決されてこなかった。途上国と先進国の貧しい人たちがようやく同じ地平に立てた記念すべき日です。一人一人が声を上げることから始めたい」という発言を紹介しております。

2 つながりの強調

何をして「ようやく同じ地平に立てた記念すべき日」としているかですが、これ以上の彼女の発言の紹介がないので、あくまで私の推測に過ぎないのですが、貧しさという点で先進国も発展途上国も同じく声を出していくようになったということを言いたいのではないかと考えます。

他にも参加したフリーターの意見として、原発で働いてる作業員を例に「貧しい人たちが原発産業を支えている。貧困と原発は一直線でつながっている」といった主張や「アメリカの人たちが『反原発で連帯しよう』と言ってくれてすごく心強かった。ここに来て、世界とつながるきっかけができた。何かが始まるような気がする」といった意見などを紹介しております。

こうしたことから思うに、この記事のスタンスとして、皆が「貧しさ」や「反原発」でつながりだしたと言いたいのではないかと考えます。ただ、その一方で、先に紹介したように「多彩さ」「あいまいさやまとまりのなさが特徴」としているように、多様性も大事だとしているようです。

実際、集会の呼びかけ人でもある作家の雨宮処凛の「(運動スタイルについては)反貧困でも脱原発でも、いろんな人が勝手にあちこちで言っているのが一番いいこと。無理にまとめることもない。とにかく声を上げ続けることが大切」という言葉を紹介しております。

確かに、いろいろな人が自分の意見を自由に言えるというのは極めて大事なことで、この点については全く異存はありません。しかし、この記事で強調されている「つながり」、特に先進国と発展途上国のつながりがそんなに簡単になし得るものかというと、いろいろひっかるところがあります。

3 南北問題

南北問題の古典的な分析として「従属論」があります。これは、世界資本主義の構造(中心-周辺構造)があるが故に、前者は高度な技術で、遅れた技術しかもたない後者を搾取しつづけ、周辺は中心に追いつくことができず、いつまでたっても周辺のままだという論です。

これに対して、中心と周辺の中間に準周辺という概念を設定し、中心への上昇も可能としたウォーラースティンの「世界システム論」やその後のNIESやBRICSなどの登場により、こうした議論は下火になっておりますが、未だにマルクス主義的思想に共感を持つ方にはそれなりの影響力があるようです。

確かに発展途上国の方々は、いろいろ貧しさなどに虐げられ、多国籍企業や先進国に搾取してきたと言えるかもしれません。そして日本の非正規労働者を搾取しているのも大企業であると考えれば搾取されている者同士、共に「貧しさ」を媒介にして繋がることができるかと考えるかもしれませんが、私はかなり懐疑的です。

いろいろな方がいるので、一概にはどういう言えませんが、発展途上国の貧困から見ると日本の貧困はまだ余裕があると思います。そして何故こうした生活水準を維持できるかというと、企業などが払う税金があるからで、企業が海外で「搾取」をして利益をあげているから税金が払える面があることも否定できません。

更に、日本の非正規労働者が増えたのは、生産コストを下げるためですが、これは海外の安価な労働力を武器に輸出攻勢をかけてくる発展途上国の企業との競争が原因の1つです。そのため、先進国の貧しい労働者と発展途上国の労働者はパイの奪い合いあいをしているのが現実であり、こうした人達が利害の一致をみるのは難しいのではないかと考えます。

これは海外での私の経験からですが、本当に貧しい者は、なりふり構っておられず、自分のことで精一杯です。そのため、悲しい話ですが、生きていくために、他人を利用することしか考えない者も多いのが実情で、ここでいう「つながり」をどこまで本気で考えているか内心よくわからないことがあるというのが、私の感想です。

 ブログ『政治学に関係するものらしきもの』を運営しております。  専門は国際政治(主に日中関係)で、博士課程中退(正式に手続をとったわけではないのですが、たぶんそうなっているでしょう)。  ただ、基本的に雑食系ですので、特に専門にこだわらずにやっていきたいと思っております。

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