犬から信頼されるテクニック


私がトレーニングやリハビリを行ったり、保護施設から犬をレスキューする際に気をつけているのが“犬に自分を信頼してもらう”ことです。
まず犬からの信用、信頼を勝ち取らないことにはトレーニングやリハビリも上手くいかなくなってしまいます。犬の個性も犬それぞれで千差万別ではありますが、共通していることがあります。初対面の犬や、まだ信頼関係が成り立っていない時などに私が実際に使っているテクニックをご紹介しましょう。

まずは不安にさせないこと

私達ヒトは犬が驚いたり不安な気持ちにならないように振る舞う事が大切です。ここでイヌ好きがよく起こすミステイクの一例を挙げてみます。
・犬の顔の正面に向い合って立つ
・不用意に大声を出す(「きゃーかわいいー!」など)
・犬の近くで大きな音を立てる(音を立てて走り回るなど←特にお子様など)
・犬から近寄ってこないうちに犬に触る
・抱きかかえる

犬は正面に立たれることや、正面で座られたりすることを嫌います。多くの場合でこのように正面に構えたら犬は顔を逸らすか、移動します。正面に向かい合う事は犬の世界では”威圧”となります。また、大きな声や音は犬を不用意に驚かせてしまいます。イヌ好きな人は可愛い犬を見るとつい大きな声で騒ぎがちですが、信頼関係が構築できていないうちは、あまり大きな声を出さないようにすることが肝心です。
犬が自ら自分の方へ寄ってこないうちは犬に近寄ったり、触ったりしないことです。敏感な犬の場合は噛まれることもあります。
また、信頼関係ができていないうちに犬を抱きかかえるの厳禁です。犬はそもそも高い所が苦手です。知らない人にいきなり抱きかかえられ、高い場所に移動させられたら怖がってしまいます。

犬を安心させる方法とは

上記に並べた犬を不安にさせる例をとって、犬を安心させる方法について見てきましょう。
・犬の身体の側面に対して、自分の身体の側面を見せるようにする
これは基本中の基本です。正面で向かい合うと犬は緊張し不安を感じます。なのでお互いに身体の側面を向けていれば無用な緊張や不安を産まずにすみます。
・大きな声や音を出さない
犬は大きな声や音を不意に聞くと驚いたり、緊張したりします。なのでできるだけ静かに穏やかにして犬が落ち着くのを待ちましょう。
・犬が近寄って来るまでは構わない
これはイヌ好きの人には辛い選択かも知れませんね。でも犬が近寄ってこない時にはそれなりの理由があります。その意志を尊重してあげましょう。犬が興味をもって近づいて来るまでは構わない方が犬は安心し易くなります。
・触る/抱きかかえるは犬が安心してから
犬があなたに興味をもって近寄ってくると、最初に行うがあなたの匂いチェックです。足元の匂いを嗅いだりして、あなたが安全な対象かを見定めています。あなたが安全である事を犬が確認するまでは構わないようにして、匂いチェックが終わるまでは犬を無視しましょう。逆に犬が近寄ってきた時にあなたが興奮して話しかけたり、触ったりすると犬は適切な匂いチェックができなくなってしまいます。匂いチェックが終わるまでは、じっと我慢して匂いチェックが終わって犬がリラックスしたら触ったり、話しかけたりスキンシップを取るようにしましょう。

触り方のちょっとしたコツ

匂いチェックが終わり犬がリラックスしたら、スキンシップをとるとします。この場合はまず、犬の側面に位置しながら犬の鼻先、鼻より低い位置に手を差し出します。この時の手は手の甲を鼻先に持っていきます。すると犬は手の匂いを嗅ぎます。匂いを嗅ぎ終わったらそのまま手の甲で胸や身体の側面を優しく、ゆっくり動かしながら触ります。ここで抵抗しないようなら触られることを受け入れている状態なので触っても大丈夫です。しかし、もし犬が顔を背けたり、場所を移動するようなら、あなたに心を許していません。なのでまだ触らないようにして時間を置いてから再度チャレンジしましょう。

一番大切!あなたの心の状態

犬と接する時には常に穏やかな精神状態でいるように心がけましょう。犬を熟知している人ならご存知だと思いますが、犬はこちらの心の状態に敏感に反応します。なのであなたが興奮していたり、犬を怖がっていたりすると、その不安定さを感じ取って犬も興奮したり、警戒するようになります。あなたが犬に穏やかでいて欲しいと願うなら、まずはあなたが穏やかであるように心がけましょう。私はよく深呼吸をしてから犬と接するようにしています。2〜3回の深呼吸で身体も心も楽になりますよね。その状態で一切の不安を持たずに冷静に犬と向き合うと犬も安心し易くなり、適切な態度で犬と向きあえば、犬はあなたを信頼してくれるようになります。

犬は人類の友達

適切な態度と心理状態で犬と向きあえば犬はあなたを理解してくれます。これは他の動物では中々見られないことで、犬特有なのかも知れません。犬があなたを信頼しはじめると絆が生まれてきます。その絆を大切に育てていけば、犬はかけがいのないパートナーとなるでしょう。その第一歩は犬を不安にさせないこと、安心させることが大切です。そして穏やかな心で犬を信じて向き合うと犬もこちらを信用してくれるでしょう。
信頼を勝ち取れるかどうかは我々の態度と行動しだいということですね。
今回は犬との接し方の一例をご紹介しました。もっと詳しく知りたい方はお近くのトレーナーやビヘイビアリストに教わるのも良いと思います。

「トップの写真は著者撮影のもの」

DBCA認定ドッグビヘイビアリスト(犬の行動心理カウンセラー)・JCSA認定ドックトレーナー(家庭犬訓練士)・動物行動学研究者(日本動物行動学会)。 警察犬訓練所でドッグトレーニングを学び、その後に英国の国際教育機関にて”犬の行動と心理学上級コース(Higher Canine Behaviour and Psychology)”を修了。ドッグビヘイビアリストとして問題行動を持つ犬のリハビリを行っている。保健所の犬をレスキューする保護活動にも精力的に取り組んでいる。 動物行動学・心理学・認知行動学を専門とし、犬がペットとして幸せな暮らしができるよう『Healthy Dog Ownership』をテーマに掲げ、動物福祉の向上を目指して活動中。 一般の飼主さんだけでなく、行政や保護団体からの依頼も多く、主に問題行動のリハビリが専門。 訓練(トレーニング)やリハビリの事、愛犬との接し方やペット産業の現状などについて執筆している。 著書:散歩でマスターする犬のしつけ術: 愛犬とより強い絆を築くために(amazon Kindle)・失敗しない犬の選び方-How to Choose Your Dog-(amazon Kindle)

ウェブサイト: http://www.healthydogownership.com

Twitter: HealthyDogOwner